新春展望2017

日本再興戦略としての21世紀型医療・健康経営技術の開発

(2017.01.03 00:10)
辻孝=理化学研究所多細胞システム形成研究センターチームリーダー

 日本の産業構造も大きく変革を遂げつつあり、日本再興戦略が大きく問われる年が始まる。消費財の海外生産があたりまえになったいま、日本は何をすべきか。日本の科学力を強化し、高度な医療システムや国民医療費抑制のため未病に向けたヘルスケアの発展による高付加価値型の産業化が大いに期待される。文部科学省の次期中期課題でも、ミレニアムプロジェクトで推進した基礎研究の成果を、社会へ還元するイノベーションへ転換する段階へと入った。

 21世紀型医療として期待される再生医療は、医療機関での移植治療のみならず、重度熱傷患者に対する皮膚シートをはじめ3品目がすでに実用化段階に入っている。しかしながら、重度の難病治療から再生治療を進める戦略では、患者の治療としては役立つものの、保険治療として国民医療費にも大きな負担となり、また十分な産業化に至っていないのが現実である。そのため、高度な加工技術が必要な「立体器官(臓器)再生」の研究を発展させることにより、日本の高度な科学技術を世界に発信できると共に、日本再興戦略としての高付加価値型の医療産業を提供できる可能性を有する。

 私たちは、これまで次世代再生医療である器官再生の研究開発に取り組み、歯や分泌腺、毛包の生体内での機能的な再生を実証してきた。2016年には、世界に先駆けてiPS細胞から毛包や皮脂腺を含む皮膚器官系の再生に成功し、世界に大きなインパクトを与えた。また日本発の器官再生として、毛包(毛髪)再生医療の実現化に向けて、理化学研究所と北里大学、再生医療ベンチャーのオーガンテクロジーズ社、京セラ株式会社と連携を開始し、2018年のヒトでの効果、安全性を実証する臨床研究に向けて共同開発を進めている。毛包再生医療は、生死には関係しないものの、精神的にも生活の質にとっては本質的な課題である。また自由診療領域でもあり、国民医療費に影響を与えず、初期高額治療の再生医療をビッグマーケットでカバーし、コストを下げていくこと可能性を有しており、日本の産業の振興に大きな貢献ができると考えられる。また私たちは、生活の質に関係する歯や分泌腺(唾液腺、涙腺)の器官再生技術にも積極的に取り組み、2017年にはその開発を実現したいと考えている。

 さらに国民医療費の削減に向け、病気の発症を健康の維持管理の段階で食い止める仕組みづくりが必要である。現在のヘルスケアは科学的な根拠に乏しく、ヘルスケアに科学的なエビデンスの導入が必要であろう。ヘルスケアは豊かに生きるためのスキンケアやヘアケアなどの「ライフヘルスケア」と、病気を未然に食い止める「メディカルヘルスケア」という概念の確立が望まれる。メディカルヘルスケアは、非侵襲的な新たな診断方法の開発と、健康情報やライフスタイルのカルテ、健康診断を統合した「医療ビッグデータ」の構築により、病気を発症する前の段階で健康の維持し、管理することを可能とする。この健康経営は、いくつかの企業と経済産業省と連携した活動が始まっている。この健康経営活動のさらなる普及に向けて、血液診断に加えて、革新的な非侵襲的診断技術の開発により、新たなバイオマーカーの開発が期待される。私たちは、2016年に、新たな非侵襲的診断法の基礎技術の開発コンセプトを固め、2017年には産官学の連携による革新的な非侵襲的診断法のコンソーシアムを発足させる予定である。この新たなバイオマーカーから「医療・健康ビッグデータ」を構築し、健康経営や未病化、医療診断技術として貢献すると共に、医療系ITをさらに促進して日本の産業振興に寄与していきたいと考えている。

 2017年から3年ほどの間に、スピード感を持って21世紀型医療や健康に関わる技術が実用化段階へと移行していくことが期待される。私たちは、その実現に向けて、これまでに開発した基礎科学を社会還元する体制を構築すると共に、実用化研究を加速したい。さらに国策として、日本の基礎科学に基づくイノベーションの推進と、日本オリジナルの技術に基づいた産官学の連携による実用化、産業化により、日本の再興戦略の実現が期待される。

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