新春展望2017・記者の目

シンギュラリティとノーベル賞、CRISPR、クライオ電顕、東京五輪

(2017.01.04 00:00)
河田孝雄

 明けましておめでとうございます。昨年も取材先の皆さんにお世話になりました。今年もよろしくお願いします。

 2017年のキーワードとして、まずは「シンギュラリティ」を挙げます。技術的特異点と訳されることが多いようです。2017年2月に、人工知能(AI)でノーベル賞を目指すプロジェクトが提案されるのは、まさにこのシンギュラリティのトピックといえるかと思います。

 シンギュラリティはもともとは、「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」というムーアの法則の実績をベースとして、2045年に人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事という意味合いで10年少し前に提示された言葉のようですが、このシンギュラリティで、バイオイテクノロジーが大きな意味を持つようになってきたように思います。

 生物のゲノム塩基配列を高速に解析できる次世代シーケンサー(NGS)に続いて、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術や、クライオ電子顕微鏡など、従来に比べて飛躍的な技術革新がここ数年で起こっていることにより、シンギュラリティでバイオが重要になってきたといえるのではないでしょうか。

 バイオと関連してのシンギュラリティは、2016年9月に広島で開催された第1回日本ゲノム編集学会の懇親会における徳島大学の野地澄晴学長のごあいさつが印象深く、日経バイオテクの記事にもまとめました。

(2016.09.07)
「もう一歩でシンギュラリティー、ぜひ日本が貢献を」とゲノム編集学会で徳島大学の野地学長
350部用意した要旨集は開幕数時間後に品切れ
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/09/06/01468/

 その後、理化学研究所の松本紘理事長が2016年11月頃の懇談会でキーワードとして挙げ、また12月初めの第39回日本分子生物学会年会のシンポジウム「全細胞解析が拓くマイノリティ細胞研究」(オーガナイザー:上田泰己・東京大学大学院医学系研究科教授)で、大阪大学の永井健治教授が「シンギュラリティ生物学」を提唱しました。

(2016.12.15)
阪大の永井健治教授ら、明るい5色の発光蛋白質で細胞内の微細構造を同時計測
「阪大の専売特許」の1分子検出も、「木を見て森も見れるドローンの威力」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/12/14/02039/

 Ray Kurzweil著の NHK出版編「シンギュラリティは近い [エッセンス版]」(NHK出版、2016年4月25日発行)は、05年の同氏の著書がベースなので、ドローンもゲノム編集のCRISPRも、クライオ電子顕微鏡も登場する前ですが、実に適切な未来予測を示しているように感じました。

 CRISPRは2年がかりだったノックアウトマウスの作製を2カ月に短縮し、クライオ電子顕微鏡は蛋白質の立体構造解明で一番のネックとなっていた蛋白質の結晶化を不要にして生体分子の立体構造解明を飛躍的に加速させています。

 日経バイオテクで連載している「バイオイメージング最前線」の第13回で、クライオ電顕について寄稿した理化学研究所の重松秀樹上級研究員は、2016年6月のゴードン会議で、「全ての生体分子複合体の構造はあと数年で分かるだろう」と初日のキーノートで英MRC分子生物学研究所のRichard Henderson博士が話したことを紹介しました。

(2016.07.25)
バイオイメージング最前線(第13回)
第三の構造生物手法、クライオ電子顕微鏡
理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センタータンパク質機能・構造研究チーム
上級研究員 重松秀樹博士(工学)
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/series/16/07/20/00145/

(2016.06.08)
第16回蛋白質科学会でクライオ電顕の話題相次ぐ
構造生命科学の革新技術クライオ電顕も中国が“爆買い”
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/06/08/00876/

 このようなわけで、2017年は、シンギュラリティ生物学ともいえる新分野が飛躍的に発展すると期待しています。

 これに関連しまして最後の話題は、2020年に開催される東京オリンピック/パラリンピックです。

 2016年のリオデジャネイロで、パラリンピックの記録がオリンピックの記録を上回ったケースがあり、話題になりました。9月に行われたパラリンピックの男子1500m(T13視覚障害)で、4位までの記録が、オリンピックの男子1500メートルの金メダル記録を上回ったのです。互いに牽制する駆け引きが大きな要素なので、全速力で疾走するわけではない、というこの競技特有の事情があったようです。

 しかし、南アフリカ共和国の両足義足の男子陸上選手が2012年にロンドンで開催されたオリンピックとパラリンピックに代表として参加しましたし、2016年のリオでは、義足を持つドイツの男子幅跳び選手のパラリンピックでの記録が、オリンピックの金メダルの記録にあと17cmに迫ったことも注目されました。

 一方、リオ・オリンピックでは、ロシア選手団のドーピングが問題になりました。ドーピングについては、04年のアテネのころに、バイオテクノロジーとの関連で取材しました。造血ホルモンのエリスロポエチン(EPO)の投与は、糖鎖の違いで判定できるというようなことが、そのころの話題だったように記憶しています。

 その後の技術の進歩に、ドーピンク規制でどのように対応できるのか、また、オリンピックでドーピングを厳しく規制している一方で、パラリンピックにおける道具などの進歩をどのように反映していけるのか、大きな課題ではと思います。

 3年後の2020年に東京で開かれるオリンピック・パラリンピックでは、この辺りの事情がどのようになっているか、気掛かりですしある意味、楽しみです。

 年末にベートーヴェンの交響曲第9番の生演奏をホールで聴きましたが、指揮者・演奏者も、聴衆も全員人間だと、ある意味安心して聴いていました。しかし近い将来、映画でCGが多くなっているのと同じように、演奏会といえどもいろいろなことが起こり得るような気がします。

 昨年の12月には、二松学舎と大阪大学が共同研究で製作した文豪・夏目漱石のアンドロイド「漱石アンドロイド」を完成披露記者発表会で拝見しました。AIの機能が、漱石アンドロイドに搭載されるのはこれからですが。
(2016.12.09)
【機能性食品 Vol.266】
おいしい健康がクックパッドから独立、内閣府SIP次世代機能性シンポに600人(2016.12.09)
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/foodmail/16/12/09/00060/

 AIでは、日本将棋連盟におけるソフト不正使用疑惑で、考えさせられることが多いです。大川慎太郎著「不屈の棋士」(講談社現代新書、2016年7月20日発行)にて、AIに対する見方は棋士によってさまざまであることに改めて気づかされました。

 いずれにしましても、2017年はAIをはじめとする従来からのシンギュラリティの発展に、バイオテクノロジーがいかに貢献していくかに注目して、取材を進めて参ります。

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧