(画像:123RF)

 米Pfizer社とドイツBioNTech社は、2020年11月9日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して開発中のmRNAワクチン(開発番号:BNT162b2)の第3相臨床試験(米国の臨床試験データベースの登録番号:NCT04368728)について、中間解析を初めて実施した結果、90%を超える有効性が示されたと発表した。あくまで中間解析の結果ではあるが、発表を受けて日米欧の株価は大幅に上昇している。

 第3相臨床試験は、18歳から85歳の4万3998例の被験者を対象として、BNT162b2接種群またはプラセボ接種群に1対1で割り付け、安全性と有効性を評価するランダム化観察者盲検試験(観察者である医師にのみ割り付けを隠蔽した臨床試験)。2020年7月から、米国、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、ドイツなど複数国の154施設で実施されている。これまでに4万3538例の被験者が登録され、2020年11月8日までに3万8955例が2回接種を完了した。

 この第3相試験について、外部の独立データモニタリング委員会(DMC)が初めて中間解析を実施した。その結果、過去に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染歴が無い被験者のうち、2回目の接種から7日後以降にCOVID-19を発症した症例が合計で94例に上った。その内訳を調べたところ、BNT162b2接種群とプラセボ接種群を比較して、90%を超える発症予防効果が示されたという。これまでのところ、重篤な有害事象は認められていない。

 一般にワクチンの有効性は、被験者の一方にワクチン、もう一方にプラセボ(非接種のこともある)を接種し、「ワクチン接種群で疾患を発症した被験者の数」と「プラセボ接種群で疾患を発症した被験者の数」を比較して、ワクチンの接種によって疾患になるリスクをどの程度減らせたかで評価する。例えば、1000例にワクチン、1000例にプラセボを接種し、ワクチン接種群で100例が疾患を発症し、プラセボ接種群で200例が疾患を発症すると、有効性は50%となる。

 ただ、今回のCOVID-19のように、感染率が低かったり、感染しても発症しないケースがあったりする感染症の場合、ワクチン接種群でもプラセボ接種群でも、臨床試験の追跡期間中に疾患(COVID-19)を発症する割合が非常に限られるのが課題だ。そのためCOVID-19ワクチンの開発では、製薬企業が数万例の被験者を対象とする規模の大きい臨床試験を組むのが珍しくない状況になっている。

 今回の中間解析では、(1)2回目の接種から7日後以降に被験者全体で94例がCOVID-19を発症したこと、(2)90%を超える有効性が示されたこと──が明らかになった。それ以上の詳細は明らかではないので、ここでは「90%を超える有効性」がどういうことなのか考えてみる。

 計算上は、BNT162b2接種群でCOVID-19を発症したのは8例以下にとどまり、プラセボ接種群では発症したのは86例以上になったということになる(図1)。ただし、プラセボ接種群とBNT162b2接種群のそれぞれで、COVID-19を発症した正確な被験者数は現時点で明らかになっていない。また、それぞれの接種群でCOVID-19を発症した被験者の重症度などは全く分かっていない。さらに言えば、BNT162b2の接種によって誘導される免疫が、どのくらい長く続くかもまだ分からない。

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図1 今回の中間解析の結果のイメージ(編集部で作成)
今回の第3相臨床試験では、BNT162b2接種群とプラセボ接種群にそれぞれ2万例以上が割り付けられている。割り付けられた被験者(グレー)のうち、COVID-19を発症した被験者(黒)はごくわずかだ。ただ、図1はあくまでイメージで、割り付けられた被験者(グレー)は実際にはもっと多い

 世界保健機関(WHO)は、2020年4月末、COVID-19のワクチンに求められる望ましい有効性として「少なくとも70%」、「最低でも50%以上」との見解を示している。米食品医薬品局(FDA)も、COVID-19のワクチンの指針で、50%以上の有効性を求めている。少なくとも、今回示された「90%を超える有効性」は、そうした基準を満たすものと考えられる。

 ただし今後、承認が行われたり、最終解析が行われたりするまでには、BNT162b2接種群でもプラセボ接種群でも、より多くの被験者がCOVID-19を発症することになる。その結果、BNT162b2接種群で発症した被験者とプラセボ接種群で発症した被験者の数によっては、有効性が90%より大幅に低くなる可能性もある。また、抗体依存性感染増強(ADE)やワクチン関連の呼吸器疾患増強(vaccine-associated enhanced respiratory disease:VAERD)も含め、安全性の新たなデータが出てくる可能性もあるだろう。

 Pfizer社とBioNTech社は、今後も引き続き第3相臨床試験の被験者登録を進める計画だ。また、安全性と有効性の情報を収集し、安全性のマイルストーンを達成した上で、11月第3週以降に緊急使用許可(EUA)の取得に向け、FDAに申請したい考え。また、2回目の接種から7日後以降にCOVID-19を発症した症例が164例に達した時点で、第3相臨床試験の最終解析を実施する計画だ。その際は、2回目の接種から7日後以降の発症予防効果だけでなく、接種から14日後以降の発症予防効果、COVID-19の重症化の予防効果、SARS-CoV-2の感染予防効果についても評価する。過去に感染歴が無い被験者だけでなく、感染歴のある被験者を含めた形での解析も実施する。

 Pfizer社とBioNTech社は、2020年内にBNT162b2を5000万回分、2021年までにBNT162b2を13億回分製造し、グローバルに供給する計画だ。うち、1億2000万回分は、2021年6月までに日本へ供給することで日本政府と合意している。ただ、BNT162b2は超低温での管理が必要となり、-60℃から-80℃程度で輸送したり、保存したりすることが必要になるとみられる。日本を含め、世界中でどのような体制で供給するのかが実用化への課題になりそうだ。

 また、どのようなワクチンであっても、第3相臨床試験までに把握できる有効性や安全性の知見は限られている。そのため承認後に大規模な接種が行われれば、ワクチンとの因果関係があるかどうかにかかわらず、一定の有害事象が起きる可能性は高まる。

 BNT162b2は、融合前の安定化したスパイク蛋白質遺伝子をコードした自己増殖性のmRNAを、脂質ナノ粒子に封入したmRNAワクチンだ。投与後、mRNAから融合前の安定化したスパイク蛋白質が発現し、SARS-CoV-2への免疫を誘導する機序を持つ。

■変更履歴
記事公開当初、第3相臨床試験で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した症例の数え方に誤りがありました。正しくは、「2回目の接種から7日後以降にCOVID-19を発症した症例」です。お詫びして訂正いたします。記事は修正済みです。 [2020/11/15 10:30]
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