一口に「抗体検査」と言っても、現状は性能や品質はばらばらだ(画像:123RF)
日経バイオテク×日経メディカル共催 緊急オンラインセミナー
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)征圧への道
2020年 5月 30日(土) 10:00~12:30
https://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/200530/

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、免疫があるかどうかを調べる抗体検査に注目が集まっている。抗体検査とは、被検者の血液や体液中に、細菌やウイルスなどに対して反応する抗体(IgGやIgMなど)があるかどうかを調べる検査だ。血清などを検体に使うことから、海外では、血清検査(Serology Testing、Serological tests)とも呼ばれる。

「抗体検査」とは一体何か?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しては、被検者の鼻咽頭(びいんとう)拭い液や咽頭拭い液の中の、新型コロナウイルスのゲノム(RNA)があるかどうか調べる「PCR検査」が行われている。また、被検者の鼻咽頭拭い液や咽頭拭い液の中に、新型コロナウイルスの蛋白質があるかどうかを調べる「抗原検査」の実施も始まった。これらはいずれも、“新型コロナウイルスの存在そのもの”の有無を調べるための検査であり、検査結果からは「現在ウイルスに感染しているかどうか」が明らかになる(ただし、検出限界はある)(図1)。

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図1 PCR検査、抗原検査、抗体検査の位置付けのイメージ

 それに対して「抗体検査」は、被検者の血液(全血や血漿、血清)の中に、新型コロナウイルスに対する抗体の有無を調べるための検査だ。抗体とは、ウイルスや細菌、がん細胞などの異物に対して免疫が応答し、体内で産生される蛋白質のことで、ウイルスや細菌、がん細胞に結合する特徴を持つ。抗体には幾つかタイプがあるが、一般的に抗体検査では、ウイルスや細菌の感染初期に増えてきて、回復後に減っていくIgMと、IgMに若干遅れて増えてきて、比較的長期にわたって免疫に記憶されるIgGを測定・検出する(図2)。

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図2 抗体検査の原理の大まかなイメージ(検査ごとに詳細は異なる)
抗体検査の試薬やカセットには、検査対象の抗体(IgGやIgM)を検出するため、検出用の抗原(ウイルス蛋白質)と検出用の抗体(IgGやIgMを認識する抗体)が使われている。抗体検査ごとに、こうした抗原や抗体は異なるため、性能に影響する。また、使われている検出用の抗原が、季節性のコロナウイルスの蛋白質に似ていれば、抗体検査で検出される抗体が、季節性コロナウイルスに感染した結果の抗体なのか、新型コロナウイルスに感染した結果の抗体なのか、区別が難しいといった問題もある。

 つまり、ウイルスや細菌の存在そのものではなく、それらに応答した結果である、抗体の存在の有無を調べる検査だ。抗体検査は、(感染初期に増加する抗体を調べて)原因の病原体を検出することが難しい感染症の診断に使ったり、麻疹や風疹のワクチンを打つべきかどうか判断したりするのに使われている。

新型コロナウイルスに対して産生されるIgMやIgGの挙動とは?

 もっとも、ウイルスや細菌に応答して産生されるIgMやIgGの挙動は、病原体ごとに様々。新型コロナウイルスに対しては、まだ十分な研究成果が蓄積されているわけではない。ただ、発症した感染者においては、「血中のIgMは発症数日後から増え始めて発症2週間後ぐらいに減少するのではないか」「IgGはIgMの直後から増え始めて発症20日後ぐらいにはほとんどの感染者で一定以上になるのではないか」という見方が専門家の間で広がっている(ただし、一部の研究者からは「新型コロナウイルスでは、IgMが産生されにくい可能性がある」との指摘が出ており、今後、知見が更新される可能性もある)。

 COVID-19は、症状の出ない無症候性の感染者が多いと考えられており、さらに(日本では特に)あらゆる疑い患者にPCR検査を行えていないという実情がある。そのため、抗体検査による抗体の有無から、これまでに新型コロナウイルスに感染したことがあるかどうか(感染歴)を調べ、感染率(抗体保有率)の実態を把握できるのではないかと期待されている。実際、海外では、米国ニューヨーク州やフィンランド、ドイツ、スペインなどから抗体検査の報告が次々と公表されている。国内でもこれまでに、幾つかの抗体検査の研究が実施されている。

 2020年5月2日、神戸市立医療センター中央市民病院は、2020年3月末から4月上旬にかけて同病院の一般外来(救急部と発熱外来は除く)を受診し、採血をした患者1000例の残余血清を用いて、抗体検査を実施。その結果、33例(3.3%)でIgGが陽性となり、年齢や性別で調整した後の神戸市の陽性率は2.7%に上ると考えられる、と発表した(プレスリリース)。

 また、2020年5月1日、大阪市立大学は、2020年4月の2日間、COVID-19以外で大阪市立大学医学部附属病院の外来を受診した患者のうち、無作為に抽出した312例の残余血清を用いて、抗体検査を実施。その結果、3例でIgGが陽性になり、大阪市内の抗体保有率は1%程度と考えられると発表した(プレスリリース)。

「抗体検査の性能はばらばら」と専門家は指摘

 しかし、「世界中で実施されている抗体検査の中には性能が不明なものもあり玉石混交だ。検査結果をうのみにするのは危険」と多くの専門家は指摘する。国内では、グローバル大手の診断薬企業からベンチャー企業まで、多くの企業が抗体検査の開発、販売に参入している(表1)。ただ、どのタイプの抗体を検出するか(抗体のタイプ)、ウイルスのどの蛋白質に対する抗体を検出するか(抗原)といった技術はものによって異なる。検体に使う血液の取り方も、通常の採血を推奨しているものから、自己穿刺による微量採血でも可能としているものまで様々だ。

表1 国内で開発または販売されている新型コロナウイルスの抗体検査(編集部で作成)
抗原は、Sがスパイク蛋白質の一部、Nがヌクレオカプシド蛋白質の一部を使っていることを指す。
日本での開発・販売企業(代理店)開発・製造企業製品名測定装置・機器測定法抗原抗体のタイプ研究用試薬
アボットジャパン合同会社米Abbott社「Architect SARS-CoV-2 IgG」専用装置「Architect」化学発光微粒子免疫測定法(CMIA法)NIgG販売中
医学生物学研究所(MBL)中国Shenzhen YHLO Biotech社「iFlash-SARS-CoV-2 IgG /IgM」専用機器「iFlash」化学発光免疫測定法(CLIA法)S、NIgG、IgM販売中
オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス米Ortho-Clinical Diagnostics社「VITROS Anti-SARS-CoV-2 IgG test」専用装置「 VITROS」化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)SIgG、トータル抗体(IgG、IgM含む)販売中
シスメックスシスメックス専用装置「HISCL」化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)非開示IgM、IgG開発中
シーメンスヘルスケアドイツSiemens Healthineers社専用装置「Atellica」化学発光免疫測定法(CLIA法)Sトータル抗体(IgM、IgG)日本での販売を検討中
ロシュ・ダイアグノスティックススイスRoche社「Elecsys Anti-SARS-CoV-2」専用装置「cobas」電気化学発光免疫測定法(ECLIA法)NIgGを含む成熟抗体販売中
ベルトールドジャパンセルスペクト「クオリサーチ Covid-19 human IgM IgG ELISAキット」吸光度計ELISA法SIgG、IgM販売中
米Mokobio Biotechnology社「SARS-CoV-2 IgM & IgG Quantum Dot Immunoassay」専用機器「Mokosensor」蛍光免疫測定法(FIA法)S、NIgG、IgM日本での販売準備中
TKResearch(承認申請はイムノ・プローブ)中国 INNOVITA Biological Technology社「COVID-19 IgG/IgMイムノクロマトキット」無しイムノクロマト法S、NIgG、IgM販売中
クラボウ非開示(中国企業)「新型コロナウイルス抗体検査試薬キット」無しイムノクロマト法NIgG、IgM販売中
コスモバイオ台湾Abnova Corporation社など「COVID-19 Human IgM/IgG Rapid Test」無しイムノクロマト法SIgG、IgM販売中
シミックヘルスケア・インスティテュート米ALFA SCIENTIFIC DESIGNS社「新型コロナウイルス IgG/IgM Antibody Test」無しイムノクロマト法非開示IgG、IgM販売中
スリー・ディー・マトリックス中国Prometheus Bio社「Coronavirus IgG/IgM Antibody (COVID-19) Test Cassette」無しイムノクロマト法S、NIgG、IgM開発中
日本バイオテクノファーマ非開示「COVID19-IgM/IgG 抗体検出検査キット」無しイムノクロマト法非開示IgG、IgM開発中
フナコシ米RayBiotech社など「Coronavirus (COVID-19) IgM/IgG Rapid Test Kit」など無しイムノクロマト法NIgG、IgM販売中
マイクロブラッドサイエンス、塩野義製薬中国Vazyme Biotech社「2019-nCoV IgG / IgM Detection Kit」無しイムノクロマト法非開示IgG、IgM開発中
マルコム韓国SD BIOSENSOR社「COVID-19 IgM/IgG Comboキット」無しイムノクロマト法非開示IgG、IgM販売中
ヤマト科学韓国GenBody社「GenBody COVID-19 IgM/IgG」無しイムノクロマト法NIgG、IgM販売中

 抗体検査の基本的な性能の評価指標には、PCR検査で確定診断され、感染したことが明確なヒト(患者)の発症後の血液を用いて「陽性」だと判定できるかどうかを評価する「感度」と、新型コロナウイルスが流行する前など感染していないことが明確なヒトの血液を用いて「陰性」だと判定できるかどうかを評価する「特異度」があるが、国内で販売されている抗体検査の中には、「一定数の検体を用いて評価した感度や特異度のデータが明らかではなく、性能が怪しいものも少なくない」(業界関係者)。

米国の抗体検査の中には「信用できないものもある」

 2020年4月、米Stanford大学の研究者らは、米国カリフォルニア州サンタクララ郡の住民3330人超を対象として抗体検査を実施し、50例が陽性となり、年齢や性別で調整した後の同郡の陽性率は2.81%に上ると考えられると発表した(査読前のmedRχiv誌の論文)。しかし、研究に使われた抗体検査(キット)は、米国でも承認も緊急使用許可(EUA)も受けていない、性能もよく分からないもので、「ある程度知識のある人は、この結果を信用していない」(業界関係者)。

 前述した国内の抗体検査では、神戸市立医療センター中央市民病院はクラボウが提携先の中国企業(非開示)が開発した「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット」を、大阪市立大は米Mokobio Biotechnology社の「SARS-CoV-2 IgM & IgG Quantum Dot Immunoassay」を使用していることが明らかになっている。

 後者の「SARS-CoV-2 IgM & IgG Quantum Dot Immunoassay」は、ウイルスのスパイク蛋白質やヌクレオカプシド蛋白質の一部を抗原とし、その抗原に対するIgMやIgGを量子ドットで検出する抗体検査だ。大阪市立大は、PCR検査でCOVID-19と診断された患者(陽性対象)の血清と過去の健常者50例(陰性対象)の血清を用いて抗体検査の性能が高い精度(感度と特異度)だと評価した上で抗体検査を実施していた。ただ、前者の「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット」については、少なくともプレスリリースには、抗体検査の性能については触れられていなかった(中国で1000例以上で感度、特異度を評価した結果はクラボウの製品カタログに示されている)。

 国内では、日本感染症学会が、2020年4月23日、「抗新型コロナウイルス抗体の検出を原理とする検査キット4種の性能に関する予備的検討」を発表。10検体と検体数が限られるものの、非公表の4社の抗体検査キットの性能を比較・評価した結果、「性能は、キット間の差が大きい可能性がある」と指摘している。ちなみに、厚生労働省の委託を受け、日本赤十字社が東京と東北の献血者のうち、研究の同意が得られた被験者1000例を対象に、献血の検査に回した残りの血液を用いて、抗体検査の評価を実施している。ただし、どこの抗体検査を評価しているのかや研究のデザインなどは公表されていない(2020年5月15日に厚労省が結果を公表した)。

日本で承認された抗体検査は今のところ無い

 米国では既に、性能に基づく抗体検査の選別が始まっている。米食品医薬品局(FDA)は、2020年3月16日に声明を発表。公衆衛生上の緊急事態だとして、通常の審査を経ていない、未承認の検査キットであっても、研究機関や民間企業が自ら性能を検証し、信頼性があると申し立てれば、臨床検査会社や検査室で使用することを認めた(ただし、臨床検査室改善(CLIA)法に基づく認定を受けた高度かつ複雑な臨床検査を行えるところだけ)。

 しかし、「悪意ある業者による詐欺的な抗体検査キットが出回っていた」などとして、FDAは、2020年5月4日、抗体検査を対象として規制を厳格化する方針を発表。研究機関や民間企業に、正式な緊急使用許可(EUA)を取得するよう求めるなど、性能が保証された抗体検査だけを使えるようにする姿勢を明確化した。2020年5月7日までに、12品目の抗体検査がFDAからEUAを取っている(そのうち、米Abbott社、米Ortho-Clinical Diagnostics社、スイスRoche社の抗体検査は日本でも研究用試薬として販売中もしくは販売予定)。

 一方国内では、2020年5月14日時点で、厚労省から体外診断薬として承認を得た抗体検査は無い。つまり、国内で使われている抗体検査は、いずれも研究用試薬として販売中か、現在開発中のものであり、「新型コロナウイルスに対する抗体が検出できる」とお墨付きを得たものは無い。一部の医療機関では、希望者に数万円で、抗体検査を提供したりしているが、いずれも医師の判断で、性能が定かではない研究用試薬を使った自由診療だ(保険診療ではない)。

 国内でも、現在、ロシュ・ダイアグノスティックスやシスメックスなどがデータを蓄積した上で、体外診断薬として承認申請する意向を示しており、今後、玉石混交の状態から、性能が確認された抗体検査の選別が進むと考えられる。「現在、東京都、沖縄県など、多くの自治体が抗体検査で地域の感染率を調べようとしているが、その前提として、性能が認められた抗体検査を使うことが重要だ」と専門家は指摘している。

新型コロナの「抗体検査で陽性」と「意味のある免疫ができた」は別

 もっとも、これらの抗体検査で陽性となり、「これまでに新型コロナウイルスに感染したことがある」と分かっても、それが意味のある免疫なのかどうかは別だ。現在のところ、新型コロナウイルスに一度感染し、回復した患者で産生される抗体によって、再感染が防げるかどうかなどは分かっていない。研究者が行った基礎実験からは、回復した患者の血漿には、新型コロナウイルスに対する中和抗体(ウイルスの毒性や感染力を弱めたり消失させたりする抗体)ができていると推察されている。

 ただ、現在開発、販売されている様々な抗体検査によって、そうした中和抗体の有無が判定できるかどうかは分からない。抗体検査については、(1)まず、玉石混交の状態から脱し、(2)その後、研究を積み重ね、感染によって意味のある免疫が付くことが明らかになった上で、(3)さらに、意味のある免疫を評価できる抗体検査を開発する――と、段階を踏んで研究開発を進めていくことが求められている。

 日経バイオテクと日経メディカルでは、2020年5月30日(土)10:00~12:30に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)征圧への道」と題するオンラインセミナーを実施します。医療崩壊を防ぎながら、経済活動を速やかに再開するのはどうしたら良いのか。医療とバイオテクノロジーの専門誌記者がCOVID-19治療薬やワクチンの開発動向を踏まえながら、抗体検査など最新の検査技術についても解説します。当日は、米シリコンバレーから日経BPシリコンバレー支局長の市嶋洋平や、Stanford大学の西村俊彦ディレクター(Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science:SLDDDRS)もオンラインで生出演し、現地の最新情報も伝えていただく予定です。

会場  Zoomを使ったウェブ配信セミナー
受講料 2000円(税別)
定員 500名(上限)
主催 日経メディカル、日経バイオテク
申し込みはhttps://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/200530/

【訂正】当初の記事で、誤植がありました。プレスリリースに、抗体検査の性能について触れられていなかったのは、神戸市立医療センター中央市民病院が実施した、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット」を用いた抗体検査です。おわびして訂正いたします。