バイオ村の住民投票

武田薬品によるShire社への買収提案、約50%が「評価する」

「評価しない」は約30%、自由意見では厳しい指摘相次ぐ
(2018.05.18 08:00)
久保田文
図1 買収提案をどう思うか(N=315)
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図2 今回の買収提案で評価する点(最大3つ、N=315)
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図3 「評価する」を選んだ回答者が、今回の買収提案で評価する点(最大3つ、N=152)
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図4 今回の買収提案で評価しない点(最大3つ、N=315)
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図5 「評価しない」を選んだ回答者が、今回の買収提案で評価しない点(最大3つ、N=98)
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図6 統合後、新生武田薬品の研究開発力はどうなると思うか(N=315)
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 日経バイオテク編集部では、2018年5月11日から17日にかけて、第5回バイオ村の住民投票と題して、読者を対象に武田薬品工業によるアイルランドShire社買収に関する調査を実施した。有効投票数は315票。うち、半数近くを製薬企業に勤務する従業員が占めた(記事末尾の投票者の背景参考)。

 今回の武田薬品によるShire社への買収提案をどう思うか、全投票者に聞いたところ、「評価する」と回答した投票者は48%、「評価しない」と答えた投票者は31%、「分からない」とした投票者は21%だった(図1)。「評価する」が「評価しない」を上回ったものの、「分からない」が相当な割合存在することも含めると、買収提案を「評価する」向きが圧倒的とは必ずしも言えなそうだ。

 今回の買収提案で評価する点(最大3つまで)を、全投票者に聞いたところ、多かったのが「米国など海外でのプレゼンスが高まる」「重点領域に希少疾患、血漿分画製剤(バイオ医薬含む)が加わる」の2点(図2)。初めの質問で、今回の買収提案を「評価する」と答えた投票者(N=152)の回答だけを抜き出して、評価する点を分析してみたが、やはり多かったのは「米国など海外でのプレゼンスが高まる」「重点領域に希少疾患、血漿分画製剤(バイオ医薬含む)が加わる」の2点で、全体の傾向もほぼ同じだった(図3)。

 次に、今回の買収提案で評価しない点(最大3つまで)について、全投票者に聞いたところ、圧倒的に多かったのが「負債が大幅に増える」という点(図4)。それに、「統合がうまくいかない可能性がある」「大幅なリストラが行われる可能性がある」が続いた。初めの質問で、今回の買収提案を「評価しない」と答えた投票者(N=98)の回答だけを抜き出して、評価しない点を分析してみたが、「負債が大幅に増える」が断トツで多いことや、全体の傾向もほぼ同じだった(図5)。

 こうした結果から、買収提案自体を評価する、評価しないに関わらず、今回の買収提案のメリット、デメリットの捉え方は、投票者全体で似通っていることが明らかになった。

 また、統合後の新生武田薬品の研究開発力がどうなると思うか、全投票者に聞いたところ、「高まると思う」「変わらないと思う」「下がると思う」がほぼ拮抗する形に(図6)。買収提案について評価する点を聞いた前段の質問(図2、図3)で、「研究開発力や導入や買収などの目利き能力が高まる」を選んだ投票者が決して多くなかったことを考え合わせると、投票者の多くは、「そう簡単に創薬力は高まらないのでは」と考えているようだ。

 最後に、今回の巨額買収が、日本あるいは世界の製薬・バイオ業界にどのような影響をもたらすと考えるか、自由意見を記入してもらった(203人から回答)。

 自由意見では、「リスクをとらない日本企業の悪い慣習を打破する先例になって欲しい」(製薬企業、40歳代)、「大規模な借り入れを前提に他社を買収し、メガファーマになるという新たな選択肢を提示した」(製薬企業、30歳代)など、武田薬品のリスクを負う姿勢を評価したり、これまでにない規模の買収に期待する声が一部から上がった。

 ただ、自由意見では買収提案に懐疑的な意見が大半を占め、中でも、「統合がうまくいくとは思えない」、「研究開発力が強化されない」――という指摘が数多く見受けられた。

 統合の行方については、「スイスNycomed社の買収後の統合(Post Merger Integration:PMI)を上手く行なえなかった武田薬品が、それを上回る規模で、かつ、米Baxalta社などのPMIの途中にあるShire社を上手く統合し、成長力を高められるか疑問が残る」(製薬企業、30歳代)といった指摘や、「武田薬品の研究開発力は急速に劣化しており、この状況では、今回の買収で武田がリーダーシップをとって統合が進むか疑わしい」(大学・研究機関、50歳代)といった懸念が示された。

 統合後の研究開発力についても、「今回の買収で研究開発力をどのように強化できるのかが見えてはこない。研究開発力の強化を放棄し、規模拡大による安易な生き残りを選んだように見える」(その他企業、60歳代)、「過去の買収実績からも、米Millennium Pharmaceuticals社の開発品以外は、研究開発の強化につなげることができておらず、今回の買収で武田薬品の研究開発能力が高まるとは思えない」(製薬企業、40歳代)など、厳しい意見が相次いだ。

 また、「武田薬品は製薬会社ではなく、米Pfizer社と同様の商社になってしまった」(製薬企業、40歳代)、「外にシーズを求める医薬品商社のような形態に移行してきていたが、今回の買収でその流れが加速した」(大学・研究機関、40歳代)など、武田薬品が、外部に創薬シーズを求め、導入や買収を繰り返す大規模なメガファーマ型へ完全にシフトしたと指摘する声も目立った。ただ、このシフトによって、「国内のバイオベンチャーの買収などが活発化するのではないか」(製薬企業、50歳代)と見る向きもあり、メガファーマ型へのシフトが必ずしも悪いことではないとの声も散見された。

 同時に、メガファーマ型へのシフトを図る武田薬品の決断が、自社創薬に重点を置いてきた日本の製薬企業の在り方に影響を与えるとの見方も少なくなかった。「自社の研究開発がその製薬企業価値の源泉であるという考え方を、完全に過去のものにしてしまった」(製薬企業、40歳代)、「研究者のレベルが最も高い武田薬品ですら、自社開発で新薬が出せないという現実を目の当たりにすると、日本の製薬業界全体が新薬の継続的に創出できるような何かを失っているのではと考えざるを得ない」(製薬企業、50歳代)など、武田薬品を通して、日本の製薬企業の研究開発の在り方に危機感を抱く声も多かった。

 今回の買収提案によって、国内あるいは世界でさらなる買収・合併が加速するかどうかについては、見方が分かれた。「今後数年で国内の製薬企業の特許切れが相次ぐが、売り上げを補うパイプラインに乏しいところも多いので再編が進むのでは」(製薬企業、50歳代)、「国内製薬企業のさらなる合併、規模を追求する経営へのシフトが進み、それに伴い中小製薬企業が淘汰される」(その他企業、30歳代)、「これを機会に日本の製薬企業の再編が検討され、規模を目指す企業が1社から2社出てくる」(その他企業、50歳代)など、再編・淘汰を予想する見方がある一方で、「大きな金額の買収提案ではあるが、他の日本の製薬企業は真似しないと思う」(製薬企業、40歳代)、「武田薬品だからできる部分もある。他の製薬企業には何の影響も与えない」(製薬企業、40歳代)など、武田薬品と国内の他の製薬企業を区別して考える向きも少なくなかった。

 第4回バイオ村の住民投票の投票者の背景は、男性が89.8%、女性が10.2%。勤務先は、製薬企業が47.0%と圧倒的に多く、次いでその他企業(15.6%)、大学・研究機関(13.3%)、化粧品・化学企業(3.8%)、医療機関(3.5%)の順で多かった。年齢分布は、50歳代が32.1%と最も多く、次いで40歳代(29.5%)、30歳代(15.9%)、60歳代(14.9%)が続いた。最終学歴は、国内大学の博士修了が39.4%と最も多く、次いで国内大学の修士修了(30.8%)、国内大学の学部卒(25.4%)が多かった。医師免許を取得している投票者、経営学修士を取得している投票者は、いずれも全体の2.5%だった。

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