国際アグリバイオ事業団

アグリバイオ最新情報【2018年11月】

(2018.12.13 08:00)

(編集部注)この記事は、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)によるアグリバイオ最新情報【2018年11月】から話題を抜粋し、日本語訳を掲載したものです。抜粋していない全文はこちらをご覧ください。

世界

ミシガン大学教授がゲノム編集を規制する特許制度制定を推奨

 ゲノム編集をヒトや他の生物に行うことの倫理的、経済的、環境的見地からの懸念に関する問題は、政府のこの技術を扱う上での実現可能で具体的なアプローチが不足しているため、依然として議論の最中にある。ミシガン大学のShobita Parthasarathy教授は、この問題を解決するために 特許の制度化を推奨している。

 Parthasarathy教授はNatureの論文でGeorge Westinghouseの交流電流(AC)技術での過去に直流電流に対する新技術を監視した際の特許制度の使用に見られような「見えにくい」という課題を解消することが解決策となると述べている。教授は、特許システムの使用は公開討論の場を開き、欧州連合(EU)の生物工学的発明の規制方法即、即ち改変した動物が考えうる害よりもはるかに大きな利点がある場合にのみ特許を与えるとすることを提案している。教授はまた、マサチューセッツ工科大学のチームが「gene drive」の特許を取得したことについても言及している。ここでは特許を得た機関が技術の使用を所有者に知らせることを要求している。

 Parthasarathy教授は、ゲノム編集の特許制度が政府主導であるべきで、このことが私的な方策よりも透明性が高く、政策的にも正当であると言っている。このアプローチには、環境保護、特許および商標、人間の健康、技術評価、社会科学、法律、歴史および科学の分野の専門家で構成される諮問委員会が関与すべきである。このような枠組みを使用することで、政府は公的利益のために重要な特許を評価し、最終製品の最終用途と価格を監視することができるとしている。

南北アメリカ

CRISPR/Cas9複合体の組成物の特許が米国で成立

 米国特許商標庁は10月30日、Cas9蛋白質と組み合わされたときにゲノムの標的への動きおよび編集に有効なユニークなRNAガイドを含む申請に米国特許第10,113,167号を付与した。このRNA /蛋白質の組み合わせは、標的ゲノムの編集時に精密なハサミのように作用する。

 Jennifer Doudna、Emmanuelle Charpentier、University of California, Berkeley、University of Viennaで発見されたCRISPR/Cas9 DNA標的複合体は、画期的なCRISPR/Cas9遺伝子編集ツールの基盤となる分子技術の1つである。

 この特許および以前の米国特許第10,000,772号は、動物細胞およびヒト細胞を含む任意の設定におけるゲノム編集ハサミとして有用なCRISPR/Cas9を対象とするものである。新しい特許はまた、完全機能性リボ核蛋白質(すなわち、RNAと複合体を形成したCas9蛋白質)と、その後に発現され組立てられるDNAによってコードされる成分との2つの異なる方法でCRISPR/Cas9を細胞に送達することができる蛋白質/ RNA組成物を包含する機能的なCRISPR/Cas9複合体を形成することに関するものである。

アジア・太平洋

オーストラリアで遺伝子組換えコムギの圃場試験の許可申請を規制当局が受理

 オーストラリア遺伝子技術規制局(Gene Technology Regulator Office、OGTR)は、鉄含有量が異なる遺伝子組換え(GM)コムギの圃場試験を行うためのUniversity of Melbourneからの許可申請(DIR 165)を受理した。

 この試験は、2019年4月から2023年12月まで、1カ所あたり最大2haの面積で年間最大10のサイトで実施することが提案されている。試験地は、Victoria、New South Wales、Western Australia および South Australiaの各州にある132の地方自治体のどこにでも設置することができる。試験の対象は、GM植物および導入された遺伝物質の広がりおよび持続性を制限できる制御措置をとることができるものである。 GMコムギは、ヒトの食糧や動物飼料には使用されない予定である。

 OGTRは、2019年1月下旬にリスクア評価およびリスク管理計画を準備するにあたり、パブリックコメントおよび専門家、関係機関、および当局からの助言を得る目的で申請を公開する。コメントの提出のために少なくとも30日間を予定している。

ヨーロッパ

EUにおけるゲノム編集政策、特にセリアック病に対する様々の見解

 スウェーデン農務省および欧州食品安全機関を含む多くの欧州諸国の権限のある当局の支援および前欧州委員会委員長およびヨーロッパアカデミー科学顧問会議の最高科学顧問の積極的なアドバイスにもかからず、欧州司法裁判所は、ゲノム編集による産物を遺伝子組換え作物と同様に規制することを決定した。Frontiers in Plant Scienceに発表された論文では、オランダのWageningen University&ResearchのAurelie Jouanin氏とその共同研究者は、この判決の問題点、特にセリアック病(CD)患者の低免疫原性グルテンを用いたコムギの開発の妨げになるという問題に言及している。

 CDは、人口の1%から2%で起こるグルテンに対する自己免疫反応であり、この病気を管理する唯一の方法は、グルテンを含まない食事を与えることである。様々な製品に粘弾性特性を与える量のグルテンが含まれており、グルテンフリー食はCD患者にとってはほとんど不可能である。コムギは複雑なゲノムを持ち、グルテン生産に関連する多くの遺伝子を含んでいるため、ゲノム編集はグルテンフリーコムギを生産する最も適用可能な方法である。しかし、ゲノムの編集に関するEUの決定は、この製品が市場に入ることを全く不可能にしている。

 著者らはまた、ゲノム編集製品に比べてゲノムに多くの改変を含む従来の育種によって産生される製品と同様に扱われる突然変異育種製品の規制における不一致にも触れた。さらに、米国のような他の国々はゲノム編集製品を規制していないので、米国製の製品には表示がなされていない。このため、非遺伝子組換えと表示されていないこうした国々のゲノム編集製品は欧州で流通できず、それによって世界貿易システムに混乱が生じかねない。その他の従来の遺伝子組換え規制では外来遺伝子の検出などの試験を求めているが、外来遺伝子の無いゲノム編集製品には適用できないなどの問題もある。こうしたことを挙げて、著者らはゲノム編集製品を遺伝子組換えと同様にある買うEU判決の再考を勧めている。

EC最高科学顧問は遺伝子組換えの法律の改正を要請

 欧州委員会の最高科学顧問は、欧州司法裁判所の最近の判決が科学的証拠と一致していないことが明らかであるため、ECに既存のGMO指令2001/18 / ECを改正するようECに要請した。 「この分野における将来の科学技術の進歩に対応するには、EUのGMO法を改定し、科学的証拠に基づいて、実施可能で、将来の科学技術の進歩に対応できる柔軟なものにする必要がある」と述べた。

 最高科学顧問は特に、遺伝子改変作物が自然変異を持つ作物と区別することが不可能であるため、指令の「自然性」のパラダイムが維持できるかどうかを検証することを勧めている。顧問は、「意図しない影響はゲノム編集製品ではあまり頻繁に起こらず、これらの製品は無作為突然変異生成物よりもはるかに安全であることが示されている」と主張している。また、新しい作物がヒトの健康と環境の危険を冒した場合には、その製品を生産する基礎技術にかかわらず、最終製品の特徴を調べることを勧めている。

 最高科学顧問は、GMO指令を一般公開聴取なしに改訂することは勧めないと述べた。社会的な対話を通じて、欧州で食糧がどのように生産され、健康と環境の可能な限り高い保護が確立され、科学技術革新のための良好な規制環境が作り出されるかについての情報が一般に公開されるべきであるとしている。

遺伝子組換え(GE)製品に関する議論で考慮すべき価値とは?

 食品や飼料生産におけるゲノム編集の役割は、関係者間のディベートや議論を呼び起こしている。その多くはリスクに焦点が当たっているが、ドイツのミュンヘンのLudwig-Maximilians-UniversitätのSarah Bechtold氏は評価におけるリスクは科学的にアクセス可能なものに限定しがちで、一般大衆が定義するもリスクとは異なるものであると指摘している。Frontiers in Plant Science誌に掲載された彼女の論文では、科学界と一般市民の間で「リスク」がどのように異なって見えているか、そしてこれらのリスクを超えた議論は農業におけるゲノム編集の流れのなかにおいて重要であると論じている。

 彼女は、ゲノム編集製品の性質以外に、栽培や流通の側面や社会的価値への影響も考慮する必要があり、ゲノム編集の倫理的、社会的、持続可能性に関連する側面も、さらに、科学的革新の目標と受益者の要求は大きく異なり、ゲノム編集などの技術についての結論と決定を一度に行うことは不可能であるとした。したがって、彼女は、特に消費者にとって、複数の選択肢が利用可能であるべきだと提案している。彼女はこの複数の選択肢を、どのようにして実装できるかと問いかけた上で、ゲノム編集製品であることを表示するシステムの使用を提案している。このシステムにより、消費者のケースバイケースでの決定が可能になる。すなわち、ゲノム編集などの技術に関する公的な議論に参加していない消費者であっても、国の一般的任務から独立した意思決定を自由に行うことができる。一方、このシステムは科学的な事実や助言を無視してはならない。それにより、一般の人々は購入している製品について教育を受けながら、個人の意思決定を自由に行うことができるとしている。

オランダの農業大臣が遺伝的改変に向けて扉を開けた

 オランダの農業大臣Carola Schouten氏は遺伝子改変の扉を開いた。 Schouten大臣は、オランダの農業をより持続可能にするために遺伝的改変を利用したいと考えている。 彼女は現在、会社、農業者、Wageningen Universityと協力して、ゲノム編集CRISPR/Cas法を実験する可能性について検討している。 報告書によると、Schouten大臣は、今後数週間で議会にその後進展についての文書を送る予定である。

 Wageningen University and Researchは、欧州司法裁判所の判決にもかかわらず、大臣はCRISPR/Casの実験をすべきと述べているとした。 同大学の植物研究員Bert Lotz氏は、大臣が重要なシグナルを出していると述べた。 同氏は、国際的および国内的な調査によれば、それが慎重に行われ、大きな持続可能性の成功があることを示していると付け加えた。

欧州の主導的な植物科学者が、植物育種革新を守るために政策策定を呼び掛け

 欧州連合(EU)の85以上の植物・生命科学研究機関や研究所の主導的な科学者は、植物科学と農業における革新を行えるよう、欧州の政策立案者に要請した緊急の要望書を承認した。この声明は、現代のゲノム編集技術を取り巻く最近の欧州司法裁判所の判決を受けたものである。科学者は、この決定が革新的な作物育種の事実上の禁止につながる可能性を深く懸念している。

 「植物科学分野の欧州の指導者たちは、革新的かつ持続可能な解決策を農業にもたらすことに全力を尽くしていますが、最近の科学的証拠に沿わない旧式の規制枠組みによって妨げられている」と、ベルギーのライフサイエンス研究機関である VIBの主任科学者DirkInzé氏と、この声明の創案者の1人が述べている。ポジションペーパーには現在までに500人以上の署名者がいる。

 欧州司法裁判所の判決によって、欧州の農業者は現在の生態学的および社会的課題に緊急に対応してより多くの気候弾力性とより栄養価の高い作物品種の新世代を手にすることが妨げられることになる。この声明は、過去数カ月にわたってオンラインで登場した欧州の研究機関からの数々の声明に従っている。この文書はまた、科学界全体が、最近の欧州司法裁判所判決に何らかの形の政治的行動を取られなければ、植物育種における欧州の農業革新を間違いなく止めることになると確信していることを示している。

国際アグリバイオ事業団
国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が配信するニューズレター「アグリバイオ最新情報」の中から幾つかの話題を抜粋し、日本語に訳したものを毎月第2木曜日に日経バイオテクONLINEに掲載している。ISAAAはニューヨーク州に本部を置き、米国、ケニア、フィリピンに活動拠点を有する非政府系の国際的ネットワーク組織で、政府機関や農業関連の団体、大学、農薬企業などの寄付によって運営されている。

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