国際アグリバイオ事業団

アグリバイオ最新情報【2017年10月】

(2017.11.09 08:00)

(編集部注)この記事は、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)によるアグリバイオ最新情報【2017年7月】から話題を抜粋し、日本語訳を掲載したものです。 抜粋していない全文はこちらをご覧ください。

世界

より少量のグルテンでパンを作れる遺伝子組換え小麦

 多くの健康意識の高い人々の新しい傾向にグルテンフリーの食事がある。グルテンフリーの食事は元来、セリアック病を患っている人や、グルテンに耐えられない特定の消化器系の人のために設計されている。コムギ、オオムギ、ライムギ、および他の関連する種に見いだされる蛋白質であるグルテンは、パンやケーキを作る際に接着剤として働く。副作用の原因となる特定のタイプのグルテンをグリアジン(gliadins)と言う。

 スペインのコルドバにある「持続可能な農業に関する研究所」のFrancisco Barro氏らは遺伝子工学技術を用いてコムギのグリアジンの90%を除去した。彼らは、グリアジン蛋白質の生産を停止させる遺伝子を幾つか追加した。また、コムギがグリアジンを生産するのを防ぐために、彼らはCRISPR遺伝子編集を用いて関連する45の遺伝子のうち35個をノックアウトした。得られた小麦は、グルテンの含有量が少ないため食パン(ローフパン)は作れないが、バゲットやロールパンを作ることは可能である。遺伝子組換えコムギは現在、メキシコとスペインのセリアック病の患者30人でテストされており、これまでのところ非常に良い結果である。

ゴールデンライス導入のための4つの手順

 ゴールデンライス人道倫理会のAdrian Dubock氏は、ビタミンAの欠乏に対処するために開発されたベータカロチン強化米ゴールデンライスの導入のために、人々がどのように対処すべきかについてのステップを示した。

 Dubock氏によると、第1のステップは、ゴールデンライス導入がヒトの健康と福祉の改善にいかに有用であるかを共通の理解とするための一般の市民の会合をもつように図ることである。このために政府の様々のレベルの関係者が非政府機関および民間の支援を得てその任務を果たす必要がある。

 ゴールデンライスが市場で入手可能になっても、全ての農家に種子を提供することはできない。したがって、ビタミンA欠乏症の発生率が最も高い地域を特定することが重要であり、最初に供給するための優先順位を付ける必要がある。

 次のステップは、ゴールデンライスの社会的販売戦略を様々の関係者で作成することである。農業者には飢餓や栄養不良を軽減することの様々な有用性をよく知らしめる必要があり、ゴールデンライスを販売するに当たり、農業者に不利益があってはならない。消費者は、従来の白米から得られない栄養上の有用性のためにゴールデンライスを購入し、消費するよう奨励されるべきである。

 最後に、ゴールデンライス導入の効果は、慎重な実験計画とその実施を通じた食事の記録から評価する必要がある。またその結果は、他の国がその経験から学ぶことができるように、査読付きの科学誌に掲載されなければならない。

南北アメリカ

GM低リノール酸大豆油は肥満とインスリン抵抗性を削減

 米国で一般的に使用されている植物油の大豆油は、世界的によく使われている。米University of California Rivewrside校(UCR)の研究者らは、レストランで使用されている低リノール酸の遺伝子組換え大豆油を試験したところ、従来の大豆油よりも肥満およびインスリン抵抗性が減少する一方、糖尿病および脂肪肝については、従来の大豆油と同じであることを見いだした。

 研究者らが試験したのは、地中海食が健康的であることに基づいて2014年に米Du Pont社が発売したオリーブ油と組成が類似した低リノール酸大豆油「Plenish」である。この研究では、従来の大豆油とPlenishの両方の他、飽和脂肪酸が豊富で高脂肪食の中では体重増加を起こしにくいココナッツオイルとを比較した。

 「この3種の油は全て、肝臓や血液中のコレステロール値を上昇させた。大豆油がコレステロール値を低下させるという一般的な神話を払拭することができた」と研究プロジェクトを率いた細胞生物学のFrances Sladek教授は述べた。

 研究チームはPlenishとオリーブオイルを比較した。両オイルには高オレイン酸が含まれ、オレイン酸が血圧を下げて減量を助けると考えられていた。彼らは、オリーブオイルがPlenishと同じ効果を生み出したことに着目した。すなわち、従来の大豆油よりも少ないとはいえ、同じように脂肪肝も起こしていた。これはオリーブオイルが一般的に全ての植物油の中で最も健康的であると考えられていたこととは異なる。「オリーブ油に似た脂肪酸組成を持つPlenishは、肝臓肥大症または肝臓の肥大、および肝機能障害を、オリーブ油と同じように誘発した」と研究論文の共同執筆者Poonamjot Deol氏は述べている。

米国農業・畜産業者連合が消費者とバイオ技術で対話

 バイオテクノロジーとそれが食糧と環境に与える影響に関する課題と懸念について議論するために、U.S. Farmers & Ranchers Alliance (USFRA、米国農業者と牧場主連合)は、ネブラスカダイズ委員会と共催で「食物対話(Food Dialogues):遺伝子組換えに関することを中心に」を9月6日にUniversity of Nebraskaで行った。

 Food Dialoguesには100人以上の食品関係者、影響者、映画制作者が参加し、約7000人が生中継を視聴した。「食品と農業に関する対話―食品が安全か安全でないのか、よい農業技術なのか悪いものなのかを決めるバランスが崩れているからこそこの食物対話(Food Dialogues)と映画:食品の発展(FOOD EVOLUTION)が極めて重要なのである」と司会を努めたアカデミー賞(AcademyAward)候補の監督・製作者であるScott Hamilton Kennedy氏が述べた。

 テキサス州のワタ農業者Jeremy Brown氏は、「土壌水分測定器と遺伝子組換え品種のような新しい技術により、可能な限り正確に、天然資源を保護することができる」と述べ、ネブラスカ州の農業者で牧畜主であるHilary Maricle氏は、遺伝子組換え作物は、農場の効率的利用と環境にやさしいものであり、ここでは、科学を使って農法を改善していると指摘した。

米国の立法者は、遺伝子組換えの規制の一貫性を要請

 米国下院議員79人が、農務省、食品医薬品局、環境保護局の長官に遺伝子組換え(GM)作物の規制に関する問題について書簡を提出した。

 彼らが提起した懸念の1つは、遺伝子編集技術の規制における提案された変更である。「私たちは、科学技術に基づいた思慮深い方向性に感謝するが、APHIS(米国農務省動物植物検疫局)は豊富な経験を持っているバイオテクノロジーと遺伝子編集の製品を提供しており、これらの案は、相矛盾する規制アプローチを提供するものであると懸念している。さらに、これらの革新的なツールの開発を促進するために必要な、一貫した適切なシステムを提供しているとは考えていない」とその書簡で述べた。また、提案されている矛盾した変更は、現在、これらの技術への正確なアプローチを研究している貿易相手国に一貫性のない情報を送っていることになると付け加えた。「遺伝子組換えを含む農業におけるバイオテクノロジーの統一的な立場を迅速に行使できなければ、米国の革新力とそれに伴う解決策を効果的にさらに抑制する国際的な規制の不備が出てくることを懸念する」強調した。

 議員のNeal P. Dunn、K. Michael Conaway、およびJimmy Panetta氏は、この手紙を提出した79人の議員のうち3人である。

アジア・太平洋

ICRISAT、アフラトキシンの無い落花生を作り出す

 国際半乾燥熱帯作物研究機関(ICRISAT)の研究者らは、アフラトキシンの無い落花生を開発した。この研究に関するオープン・アクセスの論文は、Plant Biotechnology Journalに掲載されている。

 研究論文によれば、抗真菌性植物防御因子MsDef1およびMtDef4.2を過剰発現させ、アフラトキシン生合成経路からのaflMおよびaflP遺伝子をサイレンシングすることにより、落花生で高いレベルのアフラトキシン耐性を達成した。遺伝子の過剰発現は、 Aspergillus flavus感染に対する遺伝的耐性を改善し、遺伝子サイレンシングは感染中のアフラトキシン産生を阻害した。これは、いくつかの落花生品種/系統において、異なる Aspergillus flavusのさまざまの形態型にもアフラトキシンの生産を無視できるほどにした。

 この画期的なアプローチは、落花生だけでなく、トウモロコシ、ワタ、チリ、アーモンド、ピスタチオなどの重要な作物でもアフラトキシンの混入を大幅に減らす可能性がある。

ヨーロッパ

欧州種子協会は、革新的育種を食糧政策の核心に据える

 欧州の種子産業は、消費者の要求に応え、生産性が高く持続可能な農業と食品生産システムに貢献するなど、欧州の農産物の課題に取り組むために、植物育種イノベーションが果たす本質的な役割を強調し、説明するためにキャンペーン#EmbracingNatureを開始した。

 農業と社会問題の現代バイオテクノロジーに関する会議パネルの種子業界を代表するヨーロッパ種子協会(ESA)のNigel Moore会長は、農民、消費者、環境のニーズに対応した新しい品種をより迅速かつ効率的に開発する機会を逃す余裕はないと述べた。

 欧州種子業界は、EUに、植物育種の革新を可能にする支持的な公共政策を確保し、最新の植物育種法を植物育種者のツールボックスの重要な構成要素とみなすよう求めている、とヨーロッパ種子協会(European Seed Association)の事務局長Garlich von Essen氏が結論した。

トウモロコシ遺伝子を持つ「スーパーチャージ」イネが収量向上

 Oxford大学主導のC4イネプロジェクトに取り組んでいる科学者たちは、イネの光合成を向上させ、作物収量を増やすために、一つのトウモロコシ遺伝子を植物に導入することにより、イネを「スーパーチャージ」に向けてより効率的な作物レベルに移行させた。

 イネはC3光合成経路を使用し、これは高温で乾燥した環境では、トウモロコシやソルガムなどの他の植物に使われているC4経路よりはるかに効率が悪い。科学者らは、イネがC4光合成を行うように「切り換えられた」場合、その生産性は50%増加すると考えている。

 研究者らは、“proto-Kranz”解剖学的改変と呼ぶ一連の変更の第一ステップをトウモロコシ遺伝子の「GOLDEN2-LIKE」をイネに導入した。この工程は、葉脈周囲の鞘細胞中の機能的な葉緑体およびミトコンドリアの量を増加させ、“proto-Kranz”品種に見られる形質を模倣した。

 Oxford大学の植物科学科植物学部のJane Langdale教授で、C4イネプロジェクトのこの段階の主任研究員は次のように述べている。「この研究では、イネに1つの遺伝子を導入して、 C3からC4への進化の道筋たどっている。これは本当に素晴らしい進展であり、その上にプロセスの残りのステップを完了するために残りステップの構築を微調整する正しい遺伝子を見つけることが課題である」。

研究

CRISPR/Cas9による遺伝子置換で貯蔵寿命の長いトマト系統を作成

 育種家は、遺伝的に強化されたエリート品種をできるだけ迅速に有用品種を開発することを長い間夢見てきた。 CRISPR/Cas9システムのような現在の遺伝子編集技術では、迅速に育種目標の達成を期待できる。

 CRISPR/Cas9を用いた植物育種の加速化するために、新疆農業科学院のQing-hui Yu氏のチームは、CRISP/-Cas9を用いた相同性修復(HDR)による遺伝子交換により、長い貯蔵寿命を有するトマトの開発を目指した。

 研究チームは、トマトALC遺伝子を潜性のalc遺伝子で置き換えることを目指した。平均突然変異頻度は72.73%に達した。しかし、T0トランスジェニック植物では低い置換効率(7.69%)だった。ホモ接合性潜性変異はT0植物で検出されなかった。ヘテロ接合性突然変異体は、突然変異をT1世代に安定的に伝達して分離した。所望のalcホモ接合突然変異体は、T1世代で達成された。

 これは、優れた貯蔵性能によって強調された特性によってさらに確認された。これらの結果は、CRISPR/Cas9誘導性のHDRによる遺伝子置換が、トマトのエリート系統を繁殖させるための有用な方法であることを証明している。

作物以外の遺伝子組換え

中国のCas研究者が低脂肪ブタを開発

 中国の科学者は、ゲノム編集を用いて低脂肪ブタの開発に成功した。 この研究の結果は、Proceedings of the National Academy of Sciencesに掲載されている。

 研究論文によると、北京の中国科学アカデミーの科学者たちは、寒さの影響を受けやすいブタの蛋白質をCRISPR/Cas9で置き換えることで、体脂肪を増やすことにつながった。彼らは、体温を維持する能力の向上、体脂肪の減少(通常より24%少ない)、および痩せた筋肉の割合の増加につながる、ブタの蛋白質の置換としてマウスから来る同様の蛋白質を挿入した。 科学者たちは、ブタ育成農家が飼育するのに費用がかからず、寒い時期に苦しむことの少ない動物を生産するのに役立つ低脂肪ブタを開発した。

文献備忘録

遺伝子組換え作物栽培国の現状と動向

 国際アグリバイオ事業団(ISAAA)は「遺伝子組換え作物栽培国の現状と動向」の最新のシリーズを公開した。 このシリーズの最初のセットには、ブラジル、アルゼンチン、インド、パラグアイ、パキスタンの5大遺伝子組換え開発国版である。「遺伝子組換え作物栽培国の現状と動向」は、特定の国の遺伝子組換え作物の商業化に焦点を当てた簡潔な要約版である。

 遺伝子組換え作物の商業化(面積と導入率)、各国の承認数および栽培件数、得られた恩恵および将来の見通しに関するデータが、簡潔かつ分かりやすく書かれている。 内容は、ISAAA Brief 52;商品化された遺伝子組換え/ GM作物の世界的状況:2016に基づいている。

 遺伝子組換え作物栽培国の現状と動向は、以下のサイトからダウンロードできる。
http://www.isaaa.org/resources/publications/biotech_country_facts_and_trends/default.asp

国際アグリバイオ事業団
国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が配信するニューズレター「アグリバイオ最新情報」の中から幾つかの話題を抜粋し、日本語に訳したものを毎月第2木曜日に日経バイオテクONLINEに掲載している。ISAAAはニューヨーク州に本部を置き、米国、ケニア、フィリピンに活動拠点を有する非政府系の国際的ネットワーク組織で、政府機関や農業関連の団体、大学、農薬企業などの寄付によって運営されている。

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