国際アグリバイオ事業団

アグリバイオ最新情報【2018年6月】

(2018.07.12 08:00)

(編集部注)この記事は、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)によるアグリバイオ最新情報【2018年5月】から話題を抜粋し、日本語訳を掲載したものです。抜粋していない全文はこちらをご覧ください。

世界

FAO、農業に生物多様性保全の考えを取り入れることを要請
健康的で栄養価の高い食品を志向することは、持続可能な農業システムを維持するとともに、地球の生物多様性を保護しながら行わなければならない。食糧農業機関(FAO)のJose Graziano da Silva事務局長は、生物多様性を農業政策とその実践において主流化するための国際的な会合の開会に当たってこう述べた。

「私たちが食糧を生産している方法には、大きな課題がある。今日、世界はまだ50年以上前に始まった緑の革命の原則に基づいた食糧を生産しており、高価な化学物質を高い投入レベルで使用することで環境に高い負荷をかけていることである」とGraziano da Silva氏が述べている。彼は、全ての分野で生物多様性の保護に焦点を当てることが「基本的概念」であると主張した。

植物の遺伝的多様性は、より暑く、より乾燥した環境に耐えられる品種を生み出すために活用できる。他方、農業上の生物多様性の損失は、食料安全保障にとって直接的リスクをもたらす。 FAOは、農業、森林、漁業の生態系への影響を軽減するために、農業分野の政策整備、自然資源の利用、絶滅危惧種の保護と保全、生息地、生物多様性の必要性を強調した。

世界種子会議は遺伝学の力を利用するための産業政策に焦点
「植物育種の革新により、変化する世界のニーズを満たす植物を開発することが可能になった」と、国際種子連盟(ISF, World Seed Federation)会長、Jean-Christophe Gouache氏はオーストラリアのブリスベーンで開催されたIBF・Congress 2018の開会式で演説した。「今や‘遺伝学の力’を利用できるところにまできている」と強調した。「遺伝資源の可能性を解明して、より少ない力の投入でより多くのものを生産することは、これからの数十年において種子産業が最も力を入れるべき任務である」とも述べた。この会議は、2018年6月3日から6日にかけて、64カ国から1200人の代表者が集まり、種子産業が直面する課題と挑戦について話し合った。

Gouache氏によれば、以前は農業の効率性を改善するために遺伝学を使用することで十分だったが、今日は農業システムの弾力性と持続可能性を確保するためにも遺伝学の力が必要であるとし、「まさに、‘遺伝学の力’は生産性の向上と持続可能性の両方に役に立つものである」と結論付けた。

また、オーストラリア議会議員でオーストラリア首相補佐官のHon. Senator James McGrath上院議員は、「種子産業には、高収量とより栄養価の高い食品を提供し、世界の食糧生産に革新をもたらす責任がある」と語った。彼は世界的な食糧連鎖を支援し、食品や飼料生産におけるイノベーションを推進するこの組織を賞賛した。

1996年から2016年までの遺伝子組換え作物技術の農産物収入と生産への影響が判明
遺伝子組換え(GM)作物の商業栽培は、1990年代中頃から急速に行われ、2016年には、その導入とその結果があらゆるレベルで大きな変化をもたらした。Graham Brookes氏とPeter Barfoot両氏は、1996年から2016年間にGM作物技術が農業所得と生産性に及ぼした影響を分析して研究論文をGM Crops & Food 誌に発表した。年次分析では、ダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネの主要4作物における収穫高、生産の主な変動費、農業者の直接収入(総収入)、農場レベルでのGM技術の使用価値を推定している。

この論文は、農業者レベルで、2016年には182億ドル、1996年から2016年の総計で1861億ドルという著しい正味経済効果が継続していることを強調している。開発途上国の農業者が、その利益の大きな部分(52%)を受けている。利益の約65%は収量と生産利益に由来し、残りの35%はコスト削減によるものである。また、この技術は、4つの主な作物の世界的な生産水準の向上に重要な貢献をしているとも言われている。この技術は1996年に導入されて以来、2億1300万tのダイズと4億5000万tのトウモロコシを世界の生産に上乗せした。

南北アメリカ

一般消費者がGM食品の利点に目を向けない理由をマーケティングの専門家が指摘
マーケティングの専門家Sean Hingston氏と米York UniversityのTheodore Noseworthy氏は、一般消費者がGM食品の利点を理解していない理由を現地調査に基づいて明らかにし、GM食品のマーケティング戦略を提案した。彼らの記事はJournal of Marketingに掲載されている。

著者らによると、GM食品に対するモラルに基づく反感が、彼らの利益の認識を妨げることが研究によって示された。著者らは、これらの製品を人間が作ったと位置付ける微妙な手掛かりを与えることによって、この反感を克服できるとしている。人間の開発した遺伝子組換え食品が有益であると一般消費者に認識してもらうためには、なぜそれが開発されたのかの理解を促すことで製品に対するモラルに基づく反感は減る。これにより、製品の購入意欲が高まることが予想される。この効果は、現場(制御された環境下と自然環境下の両方)、実験室での実験、およびオンラインでの消費者パネルの調査でも同様であった。この結果は、一般消費者がGM食物をそれが何のためであるか(開発者の意図がわかる)ように包装形態や販売戦略を変えることを示唆している。

アジア・太平洋


中国の遺伝子組換え作物の承認の遅れに伴うコスト試算
近年、中国は他の国と比較して遺伝子組換え(GM)作物の商業化にかなりの時間を要している。そこで、植物バイオテクノロジーの業界団体であるCropLife Internationalは調査/出版会社のInforma社に、中国の承認遅延が農業および経済に及ぼす影響分析を依頼した。

「中国の遺伝子組換え作物の承認の遅れに伴う影響」と題する報告書は、主要なGM作物栽培国である米国、ブラジル、アルゼンチン、中国における新規GM製品の承認の遅れが農業者にもたらす重大な経済効果を定量的に表した。報告書は、「GM製品輸入のタイムリーな承認は、輸出業者と輸入業者の両方に利益をもたらす。輸出業者の経済的利益を除いても農業者および関連産業の成長といった間接的な利点もある。農業者は、より少ない収入でより多くの収量を生み出し、気候の変化の条件にうまく適応できるGM種子を導入することにより利益を得る。一方で、輸入業者は、タイムリーな承認で、より多くの多様な食糧/飼料作物の入手可能性を確保し、安全で安定した食糧供給、消費者の選択肢の改善、一部の地域における食料価格の低下をもたらすことができる」などとしている。

ヨーロッパ


欧州とフランス当局、SERALINI氏の遺伝子組換え/GMトウモロコシに関する主張を否定
欧州とフランス当局による欧州レベルでのGRACEとG-TwYSTとフランスでのGMO90 +を含む3つの研究は、Gilles-ÉricSéralini氏によって出され、論争の的となった遺伝子組換え(GM)トウモロコシに関する研究を否定した。
2012年9月、University of Caen のGilles-EricSéralini教授は、Food and Chemical Toxicology誌に世間を騒がせた論文を発表した。この論文は後に取り下げられたが、GMトウモロコシNK603がラットの腫瘍を誘導するとの主張は変えなかった。そこで、欧州連合(EU)が資金を提供してG-TwYST試験を実施。G-TwYSTの結果はスロバキアのブラチスカヴァで開催された会議で2018年4月29日に報告され、90日間のラット飼養研究でトウモロコシMON810およびNK603の健康への影響がないことが確認された。
これらの研究の結論は以下の通りである。
•GMトウモロコシNK603の当初の評価では、ヒトおよび動物の潜在的なリスクは確認されなかった。 90日間および長期の齧歯類摂食試験からのG-TwYSTデータは、同様に潜在的なリスクを認められず、最初の最初の分析の結果を支持した。

•NK603を用いた長期飼養ラットのG-TwYSTデータは潜在的なリスクも特定しておらず、したがって、最初の分析および90日間のラット飼養研究の結果を支持した。

•GMトウモロコシNK603を用いた2回の90日間ラット飼養試験の過程で実施された3つの免疫機能アッセイは、両方の試験において試験された免疫機能に影響しなかった。

フランス植物バイオテクノロジー協会(French Association of Plant Biotechnology 、AFBV)によると、これらの実験結果はenviscope.comに公開された。 AFBVは、G-TwYSTの1年および2年間の長期間の研究に言及しているが、「結果は、トウモロコシの毒性効果を示さず、毒物学者によって予測された90日以上の試験を提供しない」と述べている。 AFBVは、これらの研究が、「分析されたGMOトウモロコシの毒性に関するGE Seralini氏の研究から得られた主要な結論を否定している。また、これらの新しい研究は、Seralini氏の提案する長期的な研究の必要性も否定するものである」とした。

AFBVは、「欧州の一般消費者は、商業化の認可を受けた遺伝子組換え植物およびヨーロッパの評価手続きの健康に関する品質について、これらの研究の結果を知っておく必要があり、これらの評価は世界で最も厳しいものである」と主張している。

研究


タロイモの遺伝子がインディアンマスダードのアブラムシに抵抗性を付与
マスタードアブラムシ(Lipaphis erysimi)は、インディアンマスタード(Brassica juncea L.)の最も壊滅的な吸液害虫である。 タロイモ(Colocasia esculenta)の塊茎凝集素(tuber agglutinin、CEA)は、人工飼料に入れるバイオアッセイでは多様な半翅虫に対して有効であると以前から報告されている。 Ayan Das氏はインドのBose Instituteの研究者と協力して、タロのCEAを発現する遺伝子組換えインディアンマスタードの開発研究を行った。

遺伝子組換え植物の分析により、CEA遺伝子の安定な組み込みが確認された。遺伝子組換え植物におけるCEAの発現もまた確認された。植物を用いる害虫バイオアッセイにおいて、CEA発現インディアンマスタード系統は、顕著な害虫死亡率の増加を示した。マスタードのアブラムシの産卵量も、対照植物のそれと比較して減少した。

CEAを含むGMインディアンマスタード蛋白質のバイオセーフティ評価も実施した。結果は、GMインディアンマスタード由来の発現CEA蛋白質がアレルギー応答を誘発しないことを実証した。

この研究から、アブラムシおよび類似の半翅虫を防除するためにマスタードに利用できる有効な殺虫性および非アレルギー性蛋白質としてCEAを使えることが確立された。

新育種技術


中国の研究者が除草剤耐性スイカを開発
中国では、植え付け密度が低く、キャノピーが短いために、スイカ(Citrullus lanatus)が深刻な雑草の影響を受ける。現在、中国ではスイカ雑草防除のために5種の除草剤しか登録されていないが、その大部分は広葉雑草に対して最小限の防除しか提供していない。したがって、スイカの栽培者には雑草管理のための代替的な解決策が必要である。

この研究では、Beijing Academy of Agriculture and Forestry SciencesのShouwei Tian氏のチームが除草剤抵抗性を付与するために、スイカアセト乳酸シンターゼ(ALS)遺伝子を編集するチームを率いた。設計されたsgRNAを、スイカZG94の子葉に形質転換した。これは、食用種子の生産に使用されるエリート近交系品種であり、商用ハイブリッド種子の親系統である。

分析によると、199の遺伝子組換え植物のうち45が望みの変異を有し、T0世代で23%の効率を示した。これらの突然変異はまた、後代に伝達されることも証明された。得られたゲノム編集植物は、スルホニルウレア系除草剤に耐性があることが判明した。

この研究は、CRISPR-Cas9システムがスイカ品種の改善のための強力なツールであることを証明している。

作物バイテク以外の話題


穀物消化に優れた遺伝子組換えブタ、養豚産業の環境への炭素放出影響を削減
科学者らから成る非営利団体eLifeが運営するサイトに掲載された新しい研究では、より多くの栄養素を消化する能力を持つ遺伝子組換えブタが、養豚産業の環境への炭素放出影響を軽減する可能性を示した。

ブタ飼養のために大量の飼料が無駄になっているのは、ブタが環境損傷を引き起こす主要栄養素の2つ、窒素とリンをうまく利用できないためである。これらの栄養素を過剰摂取した分は、動物の肥料を通じて環境に放出され、空気と水の両方を汚染している。ブタは、窒素とリンの主な供給源であるフィチン酸を分解する微生物酵素を持たず、非澱粉多糖と呼ばれる繊維を分解できないため、これらの栄養素の有害な量を放出する。酵素は、β-グルカナーゼ、キシラナーゼ、およびフィターゼである。

South China Agricultural Universityのポスドク研究者Xianwei Zhang氏が率いるグループは、3種の酵素をブタのゲノムに入れた。酵素は、ブタの消化器系に適合するように最適化され、それらはブタの唾液腺で特異的に発現し、フィチン酸と非澱粉多糖の消化を口腔内で行えるようになった。飼養試験では、ブタがフィチン酸と非澱粉多糖その他の重要な栄養素を消化できるようになり、結果として排出低下できることが示された。チームはまた、動物の栄養素摂取量の増加がより速い成長率をもたらし、負の副作用がないことを報告した。

国際アグリバイオ事業団
国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が配信するニューズレター「アグリバイオ最新情報」の中から幾つかの話題を抜粋し、日本語に訳したものを毎月第2木曜日に日経バイオテクONLINEに掲載している。ISAAAはニューヨーク州に本部を置き、米国、ケニア、フィリピンに活動拠点を有する非政府系の国際的ネットワーク組織で、政府機関や農業関連の団体、大学、農薬企業などの寄付によって運営されている。

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