国際アグリバイオ事業団

アグリバイオ最新情報【2018年12月】

(2019.01.10 08:00)

(編集部注)この記事は、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)によるアグリバイオ最新情報【2018年12月】から話題を抜粋し、日本語訳を掲載したものです。抜粋していない全文はこちらをご覧ください

世界

国連食糧農業機関事務局長が栄養失調への対応を呼び掛け

 国連食糧農業機関(FAO)事務局長のJosé Graziano da Silvaは、FAO評議会での開会演説で、食料システムの変革を通じてあらゆる形態の栄養失調に取り組むよう各国に緊急の要請を出した。

 「我々が栄養失調の三大課題としている『栄養不良、肥満、微量栄養素欠乏』の同時存在が拡大し、ほとんどあらゆる国々に影響を及ぼしている。国際社会は、この課題に早急に対応するために、食料システムの変革を促進する必要がある」とGraziano da Silva氏は語った。「私たちの飢餓ゼロのゴールは、人々に食糧を与えることだけではなく、健康的な生活のために必要な栄養素を全ての人に提供することにある」とつけ加えた。

 彼はまた、「2018年の世界の食料安全保障と栄養の現状に関する報告」を引用し、その時点に世界中で20億人以上の人々が微量栄養素欠乏症にあったが、現在でも、6億720万人が微量栄養素欠乏症にあると述べた。

2050年までの生物多様性保全のための目標設定に多数の国の政府が同意

 196ヵ国の政府が、2050年までに地球上のあらゆる生命体の持続的発展と協調性のある共存にむけて資源投入を拡大することに同意した。これは、2018年11月17日から29日にかけてエジプトのSharm El Sheikhで開催された国連生物多様性会議で行われた。大会の演説で、Abdel Fattah el-Sisi氏(エジプトアラブ共和国大統領)は、次世代の天然資源を節約するために、全ての経済部門に生物多様性を中心に据えるよう求めた。

 国連(UN)生物多様性保全条約の事務局長ChristianaPaşcaPalmer博士は、「この条約が25年前に発効して以来、生物多様性の保全と持続可能な利用において有意義な進歩が達成されてきた」と述べた。Palmer博士は、「しかしながら、これらの成功は地球上の動植物の多様性の継続的な喪失を止めるには十分ではない」と強調し、全ての国の政府が生物多様性の保全への努力を加速させるよう促した。

 2週間にわたる審議と多国間交渉の結果、地球規模での自然の破壊と生物多様性の喪失および地球上のあらゆる形態の生命への脅威を反転させることに広範な国際合意を果たして閉会した。この危機に立ち向かうために、各国政府は2010年に合意された「愛知目標」を達成するための行動を加速することに合意した。会議はまた、次の国連会議で合意される2020年以降の世界的生物多様性枠組みを発展させるための包括的参加型プロセスを2020年に北京で行うことに合意した。

 ISAAA代表団は会議に参加し、会議の議題のバイオセイフティ項目に関する声明を発表した。 ISAAAはまた、遺伝資源に関するLMO、合成生物学およびデジタル配列情報(DSI)に関するサイドイベントを共催した。このイベントは、科学連合(AfS)、ドイツ合成生物学協会、国際遺伝子工学機械(iGEM)、公的研究・規制イニシアチブ(PRRI)、およびSynBio Africaと共催した。

ノーベル賞受賞者ら、「GM作物への過度の懸念が社会の利益を阻害」と指摘

 2018年のノーベル化学賞受賞である米国のFrances Arnold教授と英国のGregory Winter卿は、「遺伝子組換え(GM)食品に対する過度の懸念がこの技術から社会が受けられる恩恵を妨げている」と述べた。Arnold教授は記者会見で、「どういうわけか、私たちが既にしてきたことに対するこの新しい恐れが表れ、その恐れが本当の解決策を提供する私たちの努力を阻害している」と述べた。Arnold教授は、遺伝子組換え作物は食料生産をより環境的に持続可能なものにし、世界の人口増加に貢献することができると主張した。一方、Gregory Winter卿は、GM作物に対する現在の規制は「ゆるめる」必要があると述べた。

 ノーベル賞受賞者は、賞の授賞日である2018年12月10日月曜日にコメントした。 Frances Arnold教授とGregory Winter卿は、米国の科学者George Smith氏と共に、ノーベル化学賞を受賞した。彼らは、新しい酵素や抗体を生み出すための進化を生かした仕事をしている。彼らの研究は、自然の進化過程を利用して新しい燃料や医薬品を開発することにつながり、それが医療と環境の進歩につながっている。

遺伝子組換えと遺伝子編集が世界の食糧供給のための作物育種を向上する

 世界資源研究所(WRI)が発行した新しい報告書「持続可能な食糧未来の創出」は、食料需要が50%以上増加し、畜産製品(肉、乳製品、卵)に対する需要がおおよそ70%増加すると想定される2050年までに、地球のほぼ100億人に食糧を供給する方法を提供できる可能性がある。

 報告書は、「世界は既存の農地で食料生産を増やさなければならない」「遺伝子組み換え生物(GMO)と遺伝子編集が作物育種を改善して収量を増進させられる」と述べている。報告書は、「GMOがヒトの健康を直接害したという証拠はない」とも述べている。

 報告によると、持続可能なほど十分な食料を生産する魔法の方策はないが、上記の方法は、排出物の増加、森林減少の促進、あるいは貧困の悪化を招くことなく食料を提供するための下記の5つの項目を提供できる。 WRIは、2050年までに農地利用と温室効果ガス(GHG)排出量を削減しながら、世界全体に持続可能な食糧を供給することができると推定している。

1. 食料の損失や廃棄物を減らし、牛肉や羊肉の消費を減らし、バイオ燃料ではなく食料や飼料に農作物を使うことで、需要を減らす。
2. 農地と家畜の生産性を歴史的レベルよりも高くするが、同じ面積の土地で行う。
3. 森林伐採を止め、泥炭地や劣化した土地を修復し、収量増加を自然景観の保護に結び付ける。
4. 水産養殖を改善し、野生漁業をより効果的に管理する。
5. 農業による温室効果ガス排出量を削減する革新的な技術と農業方法を使用する。

 「持続可能な食料の創造未来」は、世界銀行、国連環境局、国連開発計画、そしてフランスの農業研究機関CIRADおよびINRAと共同でWRIによって制作された。詳細については、CIRADからのこのニュース記事を以下のサイトでご覧下さい。

南北アメリカ

アルゼンチン、遺伝子組換え(GM)コムギ商業化に一歩前進

 アルゼンチンの種子/農業企業であるBioceres 社のCEOであるFederico Trucco氏は、干ばつ耐性HB4遺伝子組換えコムギを発表。その際、「他の国が既に行ったことをしてはならない。他の国がしていないことをしなければならない」と述べた。

 この開発は1990年代半ばにアルゼンチンの政府機関である科学技術研究委員会(CONICET)のRaquel Chan氏と、彼女のチームがひまわりの種に干ばつ耐性を与えるHB4遺伝子を同定したときに始まる。 2003年に、Bioceres社はそれを商業的に開発するためにCONICETと合意に達した。 2007年に、HB4はダイズ、トウモロコシ、コムギなどの他の作物に導入された。今日まで、この技術はアルゼンチンの農業者が利用できるところには至っていない。開発者たちは、HB4コムギが市場(国内外)に与える影響についての調査結果がAg-Industry事務局によって発表されるのを待っているところである。

 「2019年に2万haの農地で栽培できるだけの種を我々は持っている。政府当局が、HB4が国内の科学部門にとって、そして食料と農業チェーンにとって画期的な出来事であると認識することを期待している」とTrucco氏は付け加えた。

アイオワ州立大学、反GMOが発展途上国に与える影響を研究

 アイオワ州立大学で実施された研究は、Btトウモロコシの安全性に関するこれまでの数十の科学的研究を分析し、遺伝子組換え(GM)作物に用いられたリスク評価プロセスの概要を提供している。

 アイオワ州の農学助教授で研究の共著者であるWalter Suza氏は、「Btトウモロコシはアフリカの農家が彼らの作物に壊滅的被害を与える害虫と戦うのを助け得る」と述べる一方、技術に対する過度の懸念がアフリカへのGM作物テクノロジーの導入を遅らせたと指摘した。彼はアフリカを介して急速に広がる新興の害虫であるヨトウムシ(fall armyworm)の問題を挙げている。彼は、Btトウモロコシは害虫と戦うのをすぐに助けられるが、伝統的な植物育種によって害虫抵抗性を獲得するには何年もかかる」と指摘した。このレビューから、開発途上国におけるBtトウモロコシなどのGM作物の導入を遅らせることは、ヒトと環境の両方にリスクをもたらすことがわかった。

 Global Food Security誌に掲載された論文は、「GM作物はヒトと環境にとって安全であり、GM作物に関連するリスクは低いか全く存在しないことが証明されている」と結論されている。GM技術がストレス耐性とより栄養価の高い作物品種を開発するために、そして天然資源とヒトの健康を守るために使われることができるとの結論を下した。また、それぞれの新しいGM製品はケースバイケースで評価されるが、Bt遺伝子を含む製品などの承認された市販製品は厳密な科学的精査の対象となっている。植物に組み込まれたBt保護を含むが、これに限定されないGM形質は、作物収量、食品の安全性、および食料に不安のある農家の収入を改善するためのツールとして考慮されるべきであるとしている。

ヨーロッパ

遺伝子の不活性化が作物の遺伝的多様性を向上

 フランスの農業開発研究局(Agricultural Research for Developmen、CIRAD)および国立農業研究所(National Institute for Agricultural Research 、INRA)の研究者らは最近、遺伝子RECQ4を不活性化すると、イネ、エンドウマメ、およびトマトなどの作物における組換え頻度が3倍に増加することを示した。この遺伝子は、作物の有性生殖過程における組換えによる遺伝物質の交換を阻害することがわかった。この発見は、植物の育種および特定の環境条件(病害抵抗性、気候変動への適応)により適した品種の開発を促進する可能性がある。

 組換えは、性的に繁殖する全ての生物に共通の自然なメカニズムである。染色体の混合が種の遺伝的多様性を決定する。過去1万年間行われてきた植物育種は、補完的に価値のある特性で選ばれた2つの植物を交配して行ってきた。例えば、「おいしい」と「害虫または病害抵抗性」の両方の特性を持つ新しいトマト品種を得るために、育種家は連続して組換え交配を行い育種してきた。ただし、複製時に組換えはほとんど発生しないため、時間のかかるプロセスだった。INRAの研究者らは、何が組換えの頻度を制限するのかを調べるために、シロイヌナズナの組換えの制御に関与する遺伝子を同定し、研究した。彼らは、1つの遺伝子、RECQ4が組換えが生じるのを防ぐのに特に効果的であることを発見した。研究者たちは、3つの農業的に価値のある種、エンドウマメ、トマト、イネを用いて実験を行った。彼らは、RECQ4を「スイッチオフ」にすることによって、平均して組換えが起こる回数を3倍にし、その結果、染色体シャッフリングが大きくなり、そのため世代ごとに多様性が増したことを示した。

国際アグリバイオ事業団
国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が配信するニューズレター「アグリバイオ最新情報」の中から幾つかの話題を抜粋し、日本語に訳したものを毎月第2木曜日に日経バイオテクONLINEに掲載している。ISAAAはニューヨーク州に本部を置き、米国、ケニア、フィリピンに活動拠点を有する非政府系の国際的ネットワーク組織で、政府機関や農業関連の団体、大学、農薬企業などの寄付によって運営されている。

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