(画像:123RF)
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 国内製薬バイオ企業の株価を分析する「株価は語る」。第2回は中外製薬(TYO:4519)を取りあげる。これまでに5期連続で、過去最高の売上収益、営業利益、当期利益を達成している同社。しかし、直近の株価は低下傾向にあり、2022年5月29日~6月4日の週の終値は前日比0.1%減の3497円だった。

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市況も受け低調に推移

 ゴールドマン・サックス証券の植田晃然氏(うえだ・あきのり、投資調査部アナリスト)は現状について、「中長期の成長力を考慮すると割安に推移している印象」と話す。同社の株価は2021年から下振れしており、現在もその傾向は続いている。要因は市場全体の傾向と、会社個別の事情の両方にあるようだ。

中外製薬の株価値動き(週間終値)
中外製薬の株価値動き(週間終値)
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 市場の傾向としては現在、相場全体が守りに入る傾向が強く、同社株はその影響を受けている。不安定な世情から、将来の成長性を見込むタイプのグロース株よりも、現在の価値に対して割安感のあるバリュー株の方が人気だという。実際、グロース株の中外製薬、協和キリン、シスメックスなどは直近で低調だが、武田薬品工業やアステラス、小野薬品工業といったバリュー株は好調だ。

ゴールドマン・サックス証券の植田晃然氏(投資調査部アナリスト)
ゴールドマン・サックス証券の植田晃然氏(投資調査部アナリスト)
2003年4月より慶應義塾大学COE研究員、日本学術振興会特別研究員として、血管ネットワーク形成の制御因子の研究に従事。2006年3月、慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程を単位取得退学し、同年4月、ゴールドマン・サックス証券入社。2009年3月工学博士号を取得。同年11月にメリルリンチ日本証券入社。調査部にて医薬品・ヘルスケアと商社セクターを担当。2014年5月、ゴールドマン・サックス証券に再入社して医薬品・ヘルスケア業界を担当。2021年の日経ヴェリタス人気アナリストランキング医薬品部門6位(写真提供:ゴールドマン・サックス証券)

 個別の事情は短期的な変動要因が見当たらないことだ。植田氏は「年内に大きなニュースフローが見込まれず、当面は株価上昇が期待できる材料が見当たらない」と話す。今年(2022年)4月に発表した決算発表(2022年第1四半期)で好調な成績と営業計画が示され、4月中は株価が4200円台と直近のピークがあった。その時点でポジティブな株価材料は予想に織り込まれ切ったとみられたためか、それ以降はゆるやかに下落している。COVID-19治療薬の「REGEN-COV/ロナプリーブ」(カシリビマブ・イムデビマブ)も株価の新たなポジティブ要因とはならず、経口治療薬が普及したり感染者数が減ったりすることで、「むしろ来期の減益要因と見られている」(植田氏)という。

長期的なパイプラインの強みに信頼あり

 植田氏はこの状況を踏まえ、2022年1月に同社の投資判断を「買い」に引き上げた。直近での株価材料はあまりないものの、長期的なパイプラインに期待を寄せ、ポジティブ要素が十分に株価に織り込まれていないと考える。

 期待するパイプラインの1つが、主力製品である血友病A治療薬の「ヘムライブラ」(エミシズマブ)の次世代品「NXT007」(血液凝固第IXa×X因子の二重特異性抗体)だ。2019年から第1相試験を始めており、2022年中とはいかないものの、2023年以降の早い時期にデータが発表されてもおかしくないと植田氏は予測している。NXT007の有用性が示されれば、ヘムライブラの競合品の情報が出てきても中外製薬の株価には響きにくくなるとの見立てだ。

 環状ペプチドをモダリティとした、同社の中分子創薬にも大きく期待が持てそうだ。抗体医薬品よりも分子量が低く細胞内へのアプローチが可能ながら、低分子医薬品よりも標的特異性が高く、分子デザインの自由度も高いという、「良いところ取り」が特徴だ。同社はこれまでに、医薬品候補として有望な環状ペプチドライブラリーを構築しており、多数の候補品が生まれているとみられる。中でも最も開発が進んでいるのは、固形がんを対象とする経口RAS阻害薬のLUNA18だ。2021年10月に第1相試験が始まった。

 植田氏は、中外製薬がこの5~6年ほどで、環状ペプチドに関する特許をグローバルで多数出願していることから、今後継続的に新規パイプラインが出てくるとみる。出願済みの特許はライブラリー構築のための基盤技術から、大量生産の技術、製剤化技術など多岐に渡る。「かなりのノウハウを貯めながらここまで来ているはず。抗体医薬での成功をペプチド創薬でも再現できる可能性がある」と感触を語る。前臨床で走っている候補品がパイプライン表に現れてくれば、適応症と実用化時期が分かり、ポジティブな株価材料になるだろう。