
日本の株式市場に上場するバイオスタートアップの株価を週ごとにウォッチしていく「バイオベンチャー株価週報」。2022年6月24日金曜日の終値が、前週の週末(6月17日)の終値に比べて上昇したのは45銘柄、不変だったのは2銘柄、下落したのは3銘柄だった。
この間、上昇率の第1位は窪田製薬ホールディングスで+43.5%だった。第2位はステラファーマで+39.4%、第3位はキャンバスで+35.7%と続いた。一方、下落率では大きい順にテラが-4.9%、Green Earth Instituteが-1.6%、ソレイジア・ファーマが-1.2%となっている。
窪田製薬ホールディングス(231円、前週比+43.5%)
2つの大きな材料が週内に発表され、それぞれで市場が大きく反応した。1つ目は20日に発表した、近視メガネ「Kubota Glass」の米国で販売開始について、2つ目は24日に発表した、同社開発品エミクススタトのスターガルト病第3相臨床試験の最終被験者のデータ取得完了についてだ。それぞれ20日と24日の同社株価のストップ高につながった。
Kubota Glassは、網膜に人工的な光刺激を与えて近視の進行抑制を図るデバイスで、網膜の周辺部の見え方をぼかすと網膜を内側に移動させる成長信号が生成され、眼軸長の増加が止まり、近視の進行が抑制されるという生体の仕組みを利用している。13日に同社は米食品医薬品局(FDA)に医療機器として登録したことを発表したが、それを受けてすぐに発売に至った。
もっとも、今回の発売はテストローンチという位置づけで、販売ルートは当面、限定的だ。取り扱いは現時点で1施設のみ、Kubota Glassの臨床試験を実施していた眼科病院の米Manhattan Vision Associates(MVA)である。価格は5600ドルとのことだ。診断やアフターケアなどの費用込みでの購入となる。「MVAは臨床試験を実施していた関係でトレーニングなどが必要なく、すぐに販売可能になった」(広報)としており、他の施設へ拡大するにはそれなりの手間と時間がかかりそうだ。このため本格的な売り上げを計上できるのはしばらく先で、同社は「本件による2022年12月期業績予想への影響は軽微」としている。
もう1つのエミクススタト第3相試験についてのニュースで、再びストップ高となった。スターガルト病に対する医薬品の開発競争の中で、エミクススタトはトップを走っている。第3相試験に入っているのはエミクススタト以外にもう1種類、台湾Lin BioScience社のTinlarebantがあるが、第3相の開始は2021年7月で、2018年11月に第3相を開始したエミクススタトに大きなアドバンテージがある。
また、第2相にある米Alkeus Pharma社のALK-001は第2相試験の実施中でこれら2剤に続く位置に付けているが、ALK-001はビタミンAの一部水素を重水素化した化合物で、ビタミンAの二量体化を抑制することで有毒な副産物の生成を抑制する。エミクススタトとはアプローチが異なるものの、ビタミンAの二量体化を抑制する点では薬効が類似している。このALK-001においては、第2相試験で病変の進行抑制が確認されており、ビタミンAの二量体化を抑制するという戦略がスターガルト病の治療において有効である可能性を補強するものとなった。
スターガルト病治療薬の市場規模は、同社によれば2027年に1600億円程度が見込まれるという。第3四半期にデータロックが予定されており、それに続く試験結果の発表に大きな注目が集まる。
キャンバス(631円、前週比+35.7%)
6月20日から22日にかけて、3日連続でストップ高を記録した。きっかけとなったのは、前週に引き続き同社の抗がん薬開発品CBP501の膵臓がんに対する進捗だ。20日に同社は、米国第2相臨床試験において、CBP501を含む3剤併用介入群の1つで2例目のクライテリア達成者の出現を報告した。同試験において1群当たり2例以上のクライテリア達成は、偶然ではない薬効への期待が高まるものであり、試験成功への期待がさらに膨らんで買われた。急騰が始まる前の6月1日から24日までに、株価はおよそ3.4倍になった。バイオ関連銘柄の中でも過熱ぶりが際立つ。
同試験は、3カ月以上の無増悪生存期間(PFS)を達成した患者の割合が主要評価項目となっている。2例または3例の3カ月PFS達成者が出れば有望な結果で、4例が達成すればその群は早期有効中止となり後半パートをスキップして第3相試験の候補介入群になる。なお、キャンバスは本試験の登録者数について2022年3月までに11例と公表しており、これが現時点における3カ月PFS達成者割合の最大の母数となる。つまり最大11例中、少なくとも2例が3剤併用介入群として達成したと考えられる。3剤併用介入群は4群のうち2群であり、単純計算すれば3剤併用介入群への登録者は2群合計で5~6例だ。そのうちの1群で達成者2例ということで、期待が大きく高まっているものと思われる。
CBP501は同社が免疫着火剤と表現する化合物で、ニボルマブ+シスプラチン+CBP501の3剤併用による、膵臓がんの3次治療として米国第2相試験が実施されている。3剤併用介入群は2群あり、CBP501の低用量(16mg/m2)と高用量(25mg/m2)で分けられている。前半パート(ステージ1)は1群9例×4群の合計36例で実施されており、各群それぞれの3カ月以上の無増悪生存期間(PFS)を達成した患者の割合が主要評価項目となっている。ステージ1の結果次第で、各群について1群当たり14例の第2相後半パート(ステージ2)を実施するか、スキップするかなどが決まる。
ステラファーマ(453円、前週比+39.4%)
6月24日、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用の医薬品「ステボロニン」について、中国企業に対する供給契約を締結したことが発表され、材料となった。中国の医療特区「海南島医療特区」でBNCT療法を導入するための契約で、BNCTの機器側を担当する住友重機械工業のBNCTシステムが導入されることも併せて発表された。6月15日に住友重機械工業と、海外進出に向けた協力関係を構築することを発表しており、ステラファーマは成果報酬として2500万円を受領するという。中国での頭頸部がん罹患数は14万人とされており、念願の海外展開が進展したことに対する今後への期待が大きいようだ。なお海南島医療特区でのBNCTの開始は、2025年度を予定しているという。
プレシジョン・システム・サイエンス(463円、前週比+27.5%)
6月24日、世界的に感染が広がっているサル痘(モンキーポックス)に対して、そのウイルスDNA検査PCRキットを7月に発売すると発表し、ストップ高につながった。スペインのCerTest Biotec社から導入して日本で販売する。プレシジョンが販売しているPCR全自動装置ジーンリードに適用する予定とされている。またヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスとの鑑別のために新たなキットも発売する予定。なお、サル痘ウイルスの検出に関しては、国立感染症研究所が公表しているサル痘検出用マニュアルによる検査法がある。また、中国企業などから導入したPCR試薬なども国内で取り扱いが始まっており、こうした競合状況でどこまで浸透するかは未知数のところがある。

順位 | 社名 | 株価(終値) | 騰落率 | |
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6月17日 | 6月24日 | |||
1 | 窪田製薬ホールディングス | 161 | 231 | 43.5% |
2 | ステラファーマ | 325 | 453 | 39.4% |
3 | キャンバス | 465 | 631 | 35.7% |
4 | プレシジョン・システム・サイエンス | 363 | 463 | 27.5% |
5 | Delta-Fly Pharma | 922 | 1153 | 25.1% |
6 | モダリス | 398 | 497 | 24.9% |
7 | ナノキャリア | 232 | 273 | 17.7% |
8 | セルシード | 132 | 155 | 17.4% |
9 | ジーエヌアイグループ | 1149 | 1317 | 14.6% |
10 | ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ | 633 | 724 | 14.4% |
11 | セルソース | 3770 | 4220 | 11.9% |
12 | リボミック | 187 | 206 | 10.2% |
13 | サンバイオ | 1048 | 1154 | 10.1% |
14 | アンジェス | 329 | 362 | 10.0% |
15 | シンバイオ製薬 | 667 | 733 | 9.9% |
16 | DNAチップ研究所 | 441 | 484 | 9.8% |
17 | ステムリム | 655 | 715 | 9.2% |
18 | そーせいグループ | 1019 | 1110 | 8.9% |
19 | サスメド | 727 | 791 | 8.8% |
20 | タカラバイオ | 1780 | 1926 | 8.2% |
21 | キッズウェル・バイオ | 259 | 280 | 8.1% |
22 | ヘリオス | 359 | 388 | 8.1% |
23 | ペプチドリーム | 1238 | 1337 | 8.0% |
24 | スリー・ディー・マトリックス | 300 | 322 | 7.3% |
25 | カルナバイオサイエンス | 847 | 908 | 7.2% |
26 | フェニックスバイオ | 584 | 625 | 7.0% |
27 | ペルセウスプロテオミクス | 366 | 391 | 6.8% |
28 | カイオム・バイオサイエンス | 167 | 178 | 6.6% |
29 | リプロセル | 198 | 211 | 6.6% |
30 | レナサイエンス | 333 | 354 | 6.3% |
31 | ユーグレナ | 862 | 915 | 6.1% |
32 | ラクオリア創薬 | 668 | 706 | 5.7% |
33 | トランスジェニック | 353 | 372 | 5.4% |
34 | ステムセル研究所 | 3805 | 4005 | 5.3% |
35 | メディネット | 58 | 61 | 5.2% |
36 | クリングルファーマ | 599 | 629 | 5.0% |
37 | 免疫生物研究所 | 307 | 322 | 4.9% |
38 | オンコセラピー・サイエンス | 62 | 65 | 4.8% |
39 | オンコリスバイオファーマ | 508 | 527 | 3.7% |
40 | ファーマフーズ | 1370 | 1419 | 3.6% |
41 | ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング | 556 | 575 | 3.4% |
42 | 総医研ホールディングス | 331 | 342 | 3.3% |
43 | メディシノバ | 338 | 348 | 3.0% |
44 | ブライトパス・バイオ | 86 | 88 | 2.3% |
45 | ファンペップ | 199 | 203 | 2.0% |
46 | デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 | 206 | 206 | 0.0% |
47 | メドレックス | 114 | 114 | 0.0% |
48 | ソレイジア・ファーマ | 86 | 85 | -1.2% |
49 | Green Earth Institute | 707 | 696 | -1.6% |
50 | テラ | 102 | 97 | -4.9% |