
日本の株式市場に上場するバイオスタートアップの株価を週ごとにウォッチしていく「バイオベンチャー株価週報」。2022年6月17日金曜日の終値が、前週の週末(6月10日)の終値に比べて上昇したのは4銘柄、下落したのは46銘柄だった。
この間、上昇率の第1位はキャンバスで+15.4%だった。第2位は窪田製薬ホールディングスで+8.1%、第3位はセルソースで+7.7%と続いた。一方、下落率では大きい順にモダリスが-24.5%、ステラファーマが-20.3%、メディネットが-19.0%となっている。
キャンバス(465円、前週比+15.4%)
6月16日にストップ高の416円(前日比+23.8%)、17日も続伸して465円(前日比+11.8%)となり年初来を更新した。6月15日に、同社の抗がん薬開発品CBP501の、膵臓がんに対する米国第2相臨床試験の進捗状況が報告され、1例のポジティブな経過が発表されたことが材料視されている。6月上旬にストップ高を記録して以来、同社株への注目が高まっているようだ。
CBP501は同社が免疫着火剤と表現する化合物で、ニボルマブ+シスプラチン+CBP501の3剤併用による、膵臓がんの3次治療として米国第2相試験が実施されている。前半パート(ステージ1)は1群9例×4群の合計36例で実施されており、各群それぞれの3カ月以上の無増悪生存期間(PFS)を達成した患者の割合が主要評価項目となっている。ステージ1の結果で、必要な投与群について1群当たり14例の第2相後半パート(ステージ2)を実施するか、スキップするかなどが決まる。
今回、ニボルマブ+シスプラチン+CBP501の3剤併用群において、1例の部分奏効(PR)例が確認されたと同社は発表した。同時にこの患者はPFSが4.5カ月に達しており主要評価項目の3カ月PFSを達成した1例であると公表され、本投与群の第2相ステージ1クリアの成功確率が高まったと判断された。また安定(SD)ではなくPRであることはCBP501への期待が高まるデータであり、公表されたとみられる。今回の1例で、第2相のステージ2をスキップして第3相に移行するシナリオの実現可能性が上昇した。
こうした情報公開のスタンスから考えると、他にPRを達成した患者や、上記と同じ群で2例目の3カ月PFSを達成した患者が出た場合などにも公表されるとみられる。その場合は株価上昇の材料となるが、仮に対照群であるシスプラチン+CBP501の2剤併用群、オプジーボ+シスプラチンの2剤併用群で良好なデータが出れば、これら対照群をステージ2や第3相で組まなければならない可能性が高まるため、キャンバスにとってややネガティブな情報となる。いずれにしても、こうした試験の進捗に関する情報が逐次出てくると、株価への注目度は高まる。国内市場では、臨床試験開始後に材料不足となりやすく株価が右肩下がりになりがちだが、それを防ぐのに有効に機能しているといえそうだ。
ペプチドリーム(1238円、前週比-16.6%)
昨年来、株価の下落に歯止めがかからず、ついに1000円を意識する水準になってきた。マイナスの材料が発表されているわけではなく、下落の要因としては、一時金収入による売上高・営業利益の拡大に対する期待が持てない状況が大きいと考えられる。黒字を続けてきた同社には、こうした業績への期待が大きい。またパイプラインの進捗に対する不足感と、昨年から続く株価下落によって「売りが売りを呼ぶ」状態であることも、それぞれ関係していそうだ。
特に、まとまった一時金収入が見込まれる提携契約の獲得について進展が少ないのは懸念材料だろう。2022年5月に米Genentech社とc-METアゴニストプログラムに関する創薬共同研究開発契約を締結したが、大手製薬との提携は約11カ月ぶりで、2021年7月の米Alnylam社とのペプチドsiRNA複合体の共同研究開発契約にまで遡らなければならない。またGenentech社とは2015年に創薬共同研究開発契約を結んでおり今回は新規の契約ではなく、c-METアゴニストという部分的な契約であることからすれば、一時金の額もさほど大きくないとみられ、このまま上半期が終われば業績面への懸念が拡大しそうだ。
もっとも、同社は業績で買うタイプの銘柄ではない。プラスの材料としては、関連会社のペプチエイドが開発している新型コロナウイルス感染症治療薬のPA-001に関して、17日に臨床研究の患者登録が完了したと発表されたことが挙げられる。この試験は単回投与で安全性を見る試験で、第1相相当のデータが取得できる。7~8月の結果公表に期待が高まるが、注意点としては、今回は臨床研究であり、データが第2相への移行に活用可能かどうかは現時点で分からないということ。第1相をあらためて実施する可能性もあるという。また安全性はクリアしても、最も重要な第2相をクリアしない限り、大きな材料にはならないと考えられ、開発のスピードアップが求められる。
株価反転への手がかりとしては、フランスAmolyt Pharma社に導出していた先端巨大症に対する治療薬候補AZP-3813で、良好なデータが発表されたことが挙げられる。効き目に個体差が少なく、また既存薬と比較して短時間で成長ホルモンの作用を抑制できることが示された。AZP-3813はペプチドリームにとって次の臨床入り候補化合物として期待がかかる化合物であり、その動物試験での良好な結果は好材料だ。同社の株価上昇に向けて、早期の臨床試験入りが期待される。
窪田製薬ホールディングス(161円、前週比+8.1%)
6月13日にストップ高となる199円(前日比+33.6%)を付けた。同日、同社が開発している近視用デバイスクボタメガネ(Kubota Glass)が、米食品医薬品局(FDA)において医療機器の登録を完了したと発表され、買われた。同社によればクラス1の医療機器として登録された。クラスIの登録において有効性に関するデータは問われず、申請及び登録は比較的容易だが、世界最大の市場で販売可能になったということで期待する向きが大きかったようだ。
クボタメガネに関しては、台湾での市場立ち上げが2021年の予定だったところ、新型コロナウイルス感染症の影響でサプライチェーンの構築が遅れており、ローンチは2022年後半にずれ込むと発表されている。米国での承認の意味合いは、発売の確度が高まったことが挙げられる。台湾では消費者向けに販売網を構築するのにアフターケア窓口の設置などを含めて手間がかかるところだ。一方米国では眼科医を介して販売する予定で、限られた範囲でのサプライチェーン構築で済む。また米国でも2022年内のローンチを目指しており、早期の収益化に期待が高まる状況となっている。
セルソース(3770円、前週比+7.7%)
6月14日に3805円(前日比+10.6%)を付けた。材料は2つあり、13日に2021年度上半期(11月~4月)の決算が発表されたこと、また同日に動物の再生医療分野への参入が発表されたことが材料となったようだ。
1つは2021年度上半期の決算について。売上高は16億9700万円(前年同期比+26.3%)、営業利益は4億9000万円(同+16.2%)となり増収増益となった。しかし、前年同期は売上高成長率が51.5%、営業利益成長率が124.9%だったのに比べると、成長の鈍化が顕著に現れている。もっとも、同社の株価はその成長鈍化を織り込んで2021年12月から急激に下落しており、ピーク時の7870円の半分以下に下がっていた。
一方、今回の業績発表では4~6月の細胞加工受託件数が過去最高を更新する大幅な伸びを示しており、2021年度下半期への業績回復に対する期待を持たせた。と同時に、同社は決算説明会で決算の上方修正への可能性にも言及したため、好感する投資家が多かったようだ。
また、ペット保険の最大手であるアニコムホールディングスと提携し、動物の再生医療へ参入することも大きな材料となった。動物の再生医療は医療機関での負担が大きく、セルソースがこれまでヒトの再生医療で培った受託加工の体制や経験がそのまま生かせる。また、健常な動物の細胞から抽出した成分を利用する他家移植を開発していく計画で、コスト減や投与へのハードル低下などで投与機会が増え、新たな適応症発掘など市場拡大も期待できる。

順位 | 社名 | 株価(終値) | 騰落率 | |
---|---|---|---|---|
6月10日 | 6月17日 | |||
1 | キャンバス | 403 | 465 | 15.4% |
2 | 窪田製薬ホールディングス | 149 | 161 | 8.1% |
3 | セルソース | 3500 | 3770 | 7.7% |
4 | ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ | 612 | 633 | 3.4% |
5 | メディシノバ | 343 | 338 | -1.5% |
6 | Delta-Fly Pharma | 954 | 922 | -3.4% |
7 | ジーエヌアイグループ | 1196 | 1149 | -3.9% |
8 | クリングルファーマ | 624 | 599 | -4.0% |
9 | ファンペップ | 208 | 199 | -4.3% |
10 | サンバイオ | 1096 | 1048 | -4.4% |
11 | トランスジェニック | 372 | 353 | -5.1% |
12 | フェニックスバイオ | 617 | 584 | -5.3% |
13 | シンバイオ製薬 | 705 | 667 | -5.4% |
14 | ブライトパス・バイオ | 91 | 86 | -5.5% |
15 | リボミック | 198 | 187 | -5.6% |
16 | メドレックス | 121 | 114 | -5.8% |
17 | ステムセル研究所 | 4040 | 3805 | -5.8% |
18 | 免疫生物研究所 | 326 | 307 | -5.8% |
19 | ペルセウスプロテオミクス | 389 | 366 | -5.9% |
20 | デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 | 219 | 206 | -5.9% |
21 | ユーグレナ | 922 | 862 | -6.5% |
22 | タカラバイオ | 1912 | 1780 | -6.9% |
23 | ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング | 598 | 556 | -7.0% |
24 | テラ | 110 | 102 | -7.3% |
25 | リプロセル | 215 | 198 | -7.9% |
26 | ソレイジア・ファーマ | 94 | 86 | -8.5% |
27 | DNAチップ研究所 | 483 | 441 | -8.7% |
28 | オンコセラピー・サイエンス | 68 | 62 | -8.8% |
29 | プレシジョン・システム・サイエンス | 401 | 363 | -9.5% |
30 | カイオム・バイオサイエンス | 185 | 167 | -9.7% |
31 | ナノキャリア | 260 | 232 | -10.8% |
32 | アンジェス | 373 | 329 | -11.8% |
33 | スリー・ディー・マトリックス | 341 | 300 | -12.0% |
34 | ラクオリア創薬 | 761 | 668 | -12.2% |
35 | 総医研ホールディングス | 378 | 331 | -12.4% |
36 | ヘリオス | 415 | 359 | -13.5% |
37 | カルナバイオサイエンス | 981 | 847 | -13.7% |
38 | ステムリム | 764 | 655 | -14.3% |
39 | オンコリスバイオファーマ | 594 | 508 | -14.5% |
40 | ファーマフーズ | 1612 | 1370 | -15.0% |
41 | セルシード | 156 | 132 | -15.4% |
42 | そーせいグループ | 1211 | 1019 | -15.9% |
43 | キッズウェル・バイオ | 309 | 259 | -16.2% |
44 | ペプチドリーム | 1485 | 1238 | -16.6% |
45 | サスメド | 875 | 727 | -16.9% |
46 | メディネット | 71 | 58 | -18.3% |
47 | Green Earth Institute | 869 | 707 | -18.6% |
48 | レナサイエンス | 411 | 333 | -19.0% |
49 | ステラファーマ | 408 | 325 | -20.3% |
50 | モダリス | 527 | 398 | -24.5% |