
日本の株式市場に上場するバイオスタートアップの株価を週ごとにウォッチしていく「バイオベンチャー株価週報」。2022年6月3日金曜日の終値が、前週の週末(5月27日)の終値に比べて上昇したのは38銘柄、不変だったのが1銘柄、下落したのは11銘柄だった。
この間、上昇率の第1位はキャンバスで+69.5%だった。第2位はリボミックで+36.4%、第3位はモダリスで+33.7%と続いた。一方、下落率では大きい順にファーマフーズが-7.6%、シンバイオ製薬が-7.2%、メディネットが-6.9%となっている。
キャンバス(300円、前週比+69.5%)
6月2日、3日と大幅に値上がりし、3日はストップ高となる300円(前日比+36.4%)を付けた。6月1日に、同社の抗がん薬開発品CBP501の、膵臓がんに対する米国第2相臨床試験の進捗状況が報告されたことが、材料視されているようだ。
CBP501は同社が免疫着火剤と表現する化合物で、カルモジュリンに作用することで「がん細胞へのプラチナ製剤の流⼊促進」「免疫抑制的マクロファージのサイトカイン産生抑制」「がん細胞の免疫原性細胞死の促進」を引き起こすことが分かっている。このためニボルマブ+シスプラチン+CBP501の3剤併用による、膵臓がんの3次治療として米国第2相試験を実施している。
今回、第2相試験の登録目標症例数36に対して、21人が5月までに登録されたことが発表された。同社では目標の半数(18人)に到達する目標時期を5月中と表現していたが、その想定以上の進捗が達成されたことが評価されているようだ。このペースで進めば、2022年中にも目標症例数の登録を完了できる。
なお本試験では3カ月以上の無増悪生存期間(PFS)を達成した患者の割合が主要評価項目となっている。このため登録から3カ月後にはその患者の結果が判明することになり、8月から9月にかけて、21人のサンプル数におけるPFS達成割合が報告される見込みだ。このデータ発表が同社の目先の最も重要な発表になりそうだ。
その結果によっては第2相を早期中止し、第3相へと進むことが可能であると同社は考えている。膵臓がんに対するCBP501の3剤併用療法は、第1b相において3カ月のPFS達成割合が35%という数字を出しており、同程度の数字を出すことができれば、比較群の成績にもよるが、後半パートを実施せずに第3相へ早期に移行する確率が高まるという。ベストシナリオで進んだ場合、同社では2025年末にCBP501を上市できると見込んでいる。
リボミック(221円、前週比+36.4%)
6月3日にストップ高となる221円(前日比+29.2%)を付けた。同日、AI(人工知能)を利用した世界初のRNAアプタマー生成技術を開発したと発表し、好感されたようだ。同社が早稲田大学理工学術院の浜田道昭教授らと共同で進めていた、AIによるRNAアプタマー創薬の効率化に関する研究が進み、基盤情報技術「RaptGen」としてNature Computational Science誌に掲載された。同技術の基本的概念はペプチドやVHH抗体などにも応用可能だという。
RaptGenはAIを活用することで、RNAアプタマーの候補化合物を効率的に取得することが可能になるという。通常、RNAアプタマーはウェットの実験であるSELEX法によってライブラリーから取得するが、標的への結合と採取、増幅の手順を何サイクルも繰り返すため手間と時間がかかる。RaptGenを用いれば、3週間ほどかかる一連の作業が、1週間程度に短縮されるという。
また、RaptGenを用いることの有用性に関して注目なのは、ライブラリーに無い新規配列を生成することができる点だ。これまでバイオインフォマティクスを用いて候補アプタマーを選択していたものの、ライブラリー内の配列しか取得できなかった。RaptGenによって、それ以外の有望な新規配列も生成可能になるという。さらに、新規の配列はアプタマーの短鎖化に活用できるため、アプタマーの最適化および製造コスト短縮につながる。配列取得のスピード以上に、こうした配列最適化の手段が大幅に増えることの意義が大きそうだ。今後同社では、現在は使用できていないRNAの2次構造情報も取り入れ、より精度を高めていく方針だ。
メディネット(67円、-6.9%)
5月30日に95円(前日比+31.9%)を付けた。前週の材料が引き続き評価されてこの日は上げたが、その後下落が続き、週末には前週比マイナスで引けた。株価が安いため短期の値幅取りの買いが集まりやすく、材料に反応しやすい状態にある。出来高が9000万株を超える日もあり取引は大盛況だった。
大きなサプライズとなったのは、同社が2017年に導入した自家細胞培養軟骨「NeoCart」について、米食品医薬品局(FDA)が5月24日に再生医療・先端治療(RMAT)として指定したと発表されたことだ。塩漬けと思われていたパイプラインが突然息を吹き返した格好になり、材料視されたようだ。メディネットがこれを5月30日に発表する前から情報が拡散しており、前週に値上がりが続いていたのはその影響も大きいと考えられる。
NeoCartは2017年にメディネットが旧米Histogenics社(現米Ocugen社)から開発販売権を導入したが、2018年に第3相臨床試験で主要評価項目未達となり、FDAから承認申請のためには追加データが必要との回答を得て、Histogenics社は開発を一時中断した。その後Histogenics社は2019年にOcugen社に買収され、Ocugen社はNeoCartの資産を他社に売却する手続きを進めていたが、実現しなかった。Ocugen社の重点領域は眼科と感染症で、NeoCartは資産として重要視されていなかったことが分かる。しかしFDAとの交渉は続けており、今回のRMAT指定に結びついた。
以前に発表されたNeoCartの第3相試験は、膝軟骨損傷患者249人が対象となり、NeoCart群170人、標準治療のマイクロフラクチャー群79人に割り振られた。主要評価項目とされた、痛みと機能の閾値を達成した割合(1年後)について、NeoCart群74%、マイクロフラクチャー群62%で統計学的有意差はなかった(p<0.0714)。だが6カ月後の割合は62%対46%(p=0.025)で有意差が示され、他の項目でも有意差と有用性が示されていた。Ocugen社はNeoCartについて第3相の追加試験を実施すべく、FDAと協議を進めている。メディネットはその開発方針が決まり次第、国内の開発について検討するとしている。
このほか、5月24日に共同研究先の九州大学が、慢性心不全を対象とした第2b相相当の医師主導治験を開始したと発表したこともプラスに働いていると思われる。これは2019年11月に締結した共同研究契約に基づくもので、自家単核球由来樹状細胞に糖脂質α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)を発現させ患者に投与する治療法だ。α-GalCerにより患者のナチュラルキラーT(NKT)細胞が活性化し、心筋の慢性炎症を制御する。NKT細胞はTh1/Th2サイトカインのバランスを調節する炎症制御細胞として知られる。医師主導治験の終了は2024年3月に予定されている。

順位 | 社名 | 株価(終値) | 騰落率 | |
---|---|---|---|---|
5月27日 | 6月3日 | |||
1 | キャンバス | 177 | 300 | 69.5% |
2 | リボミック | 162 | 221 | 36.4% |
3 | モダリス | 424 | 567 | 33.7% |
4 | Green Earth Institute | 766 | 875 | 14.2% |
5 | メドレックス | 104 | 117 | 12.5% |
6 | Delta-Fly Pharma | 815 | 911 | 11.8% |
7 | DNAチップ研究所 | 431 | 477 | 10.7% |
8 | キッズウェル・バイオ | 263 | 287 | 9.1% |
9 | リプロセル | 190 | 207 | 8.9% |
10 | ユーグレナ | 845 | 912 | 7.9% |
11 | 免疫生物研究所 | 299 | 322 | 7.7% |
12 | ブライトパス・バイオ | 84 | 90 | 7.1% |
13 | カルナバイオサイエンス | 880 | 935 | 6.3% |
14 | デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 | 203 | 215 | 5.9% |
15 | セルソース | 3190 | 3375 | 5.8% |
16 | プレシジョン・システム・サイエンス | 372 | 391 | 5.1% |
17 | 総医研ホールディングス | 340 | 357 | 5.0% |
18 | ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング | 530 | 555 | 4.7% |
19 | オンコセラピー・サイエンス | 65 | 68 | 4.6% |
20 | セルシード | 131 | 137 | 4.6% |
21 | ヘリオス | 353 | 369 | 4.5% |
22 | ナノキャリア | 221 | 229 | 3.6% |
23 | フェニックスバイオ | 582 | 603 | 3.6% |
24 | カイオム・バイオサイエンス | 171 | 177 | 3.5% |
25 | タカラバイオ | 1788 | 1839 | 2.9% |
26 | 窪田製薬ホールディングス | 143 | 147 | 2.8% |
27 | オンコリスバイオファーマ | 581 | 596 | 2.6% |
28 | サスメド | 850 | 871 | 2.5% |
29 | テラ | 81 | 83 | 2.5% |
30 | トランスジェニック | 354 | 362 | 2.3% |
31 | ソレイジア・ファーマ | 89 | 91 | 2.2% |
32 | ラクオリア創薬 | 739 | 755 | 2.2% |
33 | アンジェス | 365 | 372 | 1.9% |
34 | ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ | 590 | 600 | 1.7% |
35 | ステラファーマ | 376 | 382 | 1.6% |
36 | クリングルファーマ | 571 | 580 | 1.6% |
37 | サンバイオ | 1071 | 1084 | 1.2% |
38 | そーせいグループ | 1143 | 1151 | 0.7% |
39 | メディシノバ | 310 | 310 | 0.0% |
40 | ファンペップ | 205 | 203 | -1.0% |
41 | レナサイエンス | 407 | 401 | -1.5% |
42 | ペルセウスプロテオミクス | 386 | 380 | -1.6% |
43 | ステムセル研究所 | 4405 | 4310 | -2.2% |
44 | ペプチドリーム | 1547 | 1506 | -2.7% |
45 | ジーエヌアイグループ | 1235 | 1197 | -3.1% |
46 | スリー・ディー・マトリックス | 357 | 344 | -3.6% |
47 | ステムリム | 733 | 700 | -4.5% |
48 | メディネット | 72 | 67 | -6.9% |
49 | シンバイオ製薬 | 750 | 696 | -7.2% |
50 | ファーマフーズ | 1605 | 1483 | -7.6% |