私たちの会社が、創業から十数年で2つの新薬を世に送り出せたというのは、めちゃくちゃ運が良かっただけだろうという見方があるのは重々承知していますし、実際にめちゃくちゃ運が良かったと思います。しかし、ただ単に運が良かったことが全てなのかと言われれば、決してそうではないと思います。そこには引き寄せるべくして引き寄せた運を逃さなかった理由があると思うのです。

 「運も実力のうち」とはよく耳にするフレーズですが、これはどこまで本当なのか?と思っている方も多いのではないでしょうか。科学的に証明するのは難しいとは思いますが、少なくともある一面においてこれは真実なのではないかと、私は思っています。ルイ・パスツールの有名な言葉で「Chance favors the prepared mind(幸運は用意された心にのみ宿る)」というのがあります。2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生もこの言葉を何度も引用されておいででしたが、これに近い感覚です。

 新薬の研究開発はほとんどの場合、失敗の連続で、1つの新薬を上市に至らしめるためには、努力を超えた運も必要になります。しかしその運を得るためには、正しく仕事をしている必要があるということです。それはつまり、やるべきことが、やるべき順序で、正しいリソース配分で、必要十分な達成度を目指して行われているということです。本連載で何度もしつこく書いているように、プロジェクトマネジメントが正しく行われているかどうかということです。そこまでやってもうまくいくとは限らないのが創薬であり、そこが運も必要になるゆえんです。

 上記が、「運も実力のうち」の「実力」の部分だと思うのです。その上で、例えば臨床試験の結果のように正確な予測が不可能で、どうしてもやってみなければ分からない部分に関しては、「運」を味方につける必要があります。しかしそれ以前の部分でやり方を間違っていたり、手を抜いたりしていたのでは、運を引き寄せられるかどうか以前の問題です。その場合、失敗したとしてもそれは運が無かったせいではなく、失敗するべくして失敗したということになります。

 「人事を尽くして天命を待つ」という言葉もありますが、言っていることはほぼ同じような気がします。