シリコンバレー創薬騒動(第35回)

あるエンジェルの話

(2017.10.27 08:00)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 シリコンバレーで最初に就職したベンチャーをレイオフになった後、面白いことが起こりました。恐らくもう時効なので紹介します。そのときのレイオフは月曜日に言い渡されて、火・水の2日間は会社がアレンジした人事コンサルタントによる再就職支援のワークショップがあり、その後荷物整理などをして、同じ週の金曜日が最終日とのことでした。

 ただし、私の場合は上記に加えて、あと1つこの化合物をスケールアップして再合成していってほしいというタスクも与えられていました。その会社で私が唯一残っていたケミストだったからです。しかしそれは2、3日でできることではなかったので、もし自分にその仕事をさせたいならあと1週間はいる必要があると言ったところ、私のlast day(最終出勤日)だけ1週間延長されました。よく言えばフレキシブルですが、何とも適当なマネジメントともいえます。

 そして翌週になるとまた呼び出され、驚きの知らせがありました。当時私がケミストリーを担当していたプロジェクトの予算の一部は、実は社外のエンジェル投資家から供給されていたということ。そしてそのエンジェルが私のレイオフを知り、「待った」をかけたとのこと。

 「そのケミスト(私)がいなくなると、このプロジェクトのケミストリーを担当する者がいなくなる。それは困る。ついては自分がそのケミストの給料もカバーするので、彼のレイオフは取り消してほしい」。私が本人から直接聞いたわけではありませんが、そのようなことを言われたらしいです。

 そういうわけで、何と私のレイオフは撤回されました。こんなことってあるのか?と思いましたが、私にとってはビジネス上の足長おじさんが突然現れたような形になりました。ただ会社からはいったんレイオフ対象にされていたわけですから、気持ち的には微妙です。なので当面そのまま働きながら、転職活動も並行して行うことにしました。

 しばらくして次のポジションが見つかったのですが、当時の私はちょうどアメリカ永住権申請の最中で、転職するタイミングとしてはやや微妙でした。両方の会社でやるべきこともあったため、人事や移民弁護士、新しい職場の上司などとあれこれと相談した結果、これも私には驚きでしたが約2カ月間にわたり、片方で週40時間のフルタイム、もう片方で週20時間のパートタイムという2社掛け持ち勤務をすることで、取りあえず全ての懸案事項の解決を図ることになりました。その後完全に新しい会社に移籍しましたが、上記エンジェルのプロジェクトには、さらに2年間ほど個人コンサルタントとして参画し続けることになりました。仕事の掛け持ちとか副業とかに関して、つくづくフレキシブルな国ですね。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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