1990年代後半のアメリカでのドットコムバブルと2000年以降のバブル崩壊を、シリコンバレーというまさに現場で経験した人たちは、VC投資がいつでも得られるものではないことや、IPOがいつでもできるわけではないという、言ってみれば当たり前のことを、身に染みて学びました。従って、それ以降に生まれたベンチャーでは基本的にお金の無駄遣いをしないように気をつける傾向にあったと思います。

 ところが東海岸のビッグファーマのような組織にいた人たちにとってのバブル崩壊は、自社の株価がちょっと下がった程度で、会社が潰れたりしたわけではありませんから、シリコンバレーの人々ほどの実感を伴っていなかったと思われます。しかしその後、多くのビッグファーマが一斉に大規模なダウンサイジングを始めましたので、大量に人材が放出されました。その中の一部は、西海岸のスタートアップにポジションを求めて移ってきました。

 私が03年に転職活動をしていたとき、面接でお邪魔した会社の1つはできて間もないスタートアップでしたが、ラボのセットアップを東海岸のとあるビッグファーマから移ってきたディレクターが取り仕切っていました。そこは会社としてそれなりの資金調達はしていましたが、私の目には、その貴重なお金を湯水のように使い、全て新品で最新の設備を導入し、まばゆいばかりのラボを構築しているように見えて、いくら何でもちょっとやり過ぎなのではと感じました。しかしそのディレクターは、自分が以前いたビッグファーマにも引けを取らないラボができたと誇らしげでした。

 その会社からはオファーをもらわなかったので、私が心配する問題ではなくなったのですが、気が付くとその会社は数年後には姿を消していました。本当の理由は分かりませんが、上記のような無駄遣いも原因の1つになったのではないかと思っています。

 その後私が加わったスタートアップでは、アーリーステージにしては潤沢といえるほどの資金があったにもかかわらず、これでもかというほど出費に慎重でした。ラボもオフィスも最小限にも満たないと言いたくなる程度の機器や備品を極力中古品でそろえ、私自身も前の会社から、細々としたものをまとめたパッケージをただ同然の値段で譲ってもらってきたりしました。

 そんなやり方でしたから最初のうちは色々と不便でしたが、それも成功のための必要条件の1つだったのだと、今では思います。研究が進展するとともに、あれやこれが必要だという現場の主張もだんだん認めてもらえるようになりましたが、それでも業界のスタンダードから見れば、最後までかなり質素な設備でやり通したなあと思います。