シリコンバレー創薬騒動(第31回)

インサイダーでも分からない!

(2017.09.29 00:00)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 新薬の研究開発は、その過程のありとあらゆる段階でドロップする可能性があります。ある有望な新薬候補が最後までうまくいって、米食品医薬品局(FDA)や厚生労働省から承認を得られるかどうかは、開発を行っている当人たちにも全く分かりません。分かるのはせいぜい、可能性が比較的高そうか、ちょっと微妙かといった程度だと思います。

 ベンチャーで働いていると、よく冗談で「いい話があったらあなたの会社の株を買うから教えて」「それは言えません(笑)」といった会話がありますが、本当はむしろこちらが教えてほしいぐらいです。

 新薬の場合、たとえ認可されて発売されたとしても、まだ分かりません。臨床の現場で治験の何倍、何十倍、恐らくそれ以上の患者さんが使用することになりますので、治験段階では見つからなかった重篤な副作用が見つかり、最悪の場合は販売中止ということまであり得ます。

 もちろんベンチャーの社員としては、失敗することばかり考えていてもしょうがありませんので、基本的にいつも成功することを想像しながらやっていると思います。少なくとも私の場合はそうでした。基本的なスタンスとして、ある程度の楽観性を持っていないとベンチャーでの仕事は楽しめません。以前にも書きましたように、シリコンバレーのカルチャーを表すキーワードの1つがoptimismですから、これは多くのベンチャーで共有されていることだと思います。

 自分たちの会社のプロジェクトさえどうなるか分からないのですから、いわんや他の会社のプロジェクトにおいてをや。にもかかわらず「隣の芝生」効果で、他社のプロジェクトは順調に進んでいるように見えてしまって、焦りや羨望を覚えたりしがちです。プレスリリースなどは、噓は書きませんが、できるだけポジティブに見えるように構成しますから、会社というのは外からの方がよく見えるものなのだと思います。

 インサイダーは、外部の人たちがアクセスできないデータや周辺事情も知っていますから、自社のプロジェクトに関しては、そんなに簡単ではないよということが分かります。他社の情報を見ても、自社同様にそんなに全てが順調なはずはないという想像力を働かせれば、隣の芝生効果はある程度抑えることができます。

 とにかく新薬の研究開発というものは、最後まで行けるかどうかなどインサイダーを含めて誰にも分かりません。たとえ承認/発売にまでこぎ着けても、さらにその先も安泰とは限らないという、つくづくハイリスクなビジネスです。ですから、ある会社の株を買うかどうかは、当然、本人の責任で決めなければなりませんし、一般論として、ベンチャーの個別銘柄というのは相当なハイリスク案件であるということは、しっかりと認識しておかなければなりません。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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