シリコンバレー創薬騒動(第29回)

組織に対してどの程度の忠誠心を持つべきか

(2017.09.19 00:00)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 前々回、いざとなれば組織を去る覚悟で発言を、というちょっと過激な表現をしましたが、会社と従業員の適切な関係とはどのようなものでしょうか?

 米国では、雇用関係の原則として「at will」というものがあります。これは、いつ何時でも、理由の有無にかかわらず、雇用主側からでも従業員側からでも、雇用関係を解消することができる、というものです。何だか恐ろしいポリシーに聞こえるかもしれませんが、現実の運用としては、普通にしていればそのようなことは起きません。

 ただし気性の激しいカリスマ経営者が何かの拍子に、「You’re fired(お前はクビだっ)!」とやってしまう、まるで映画のようなシーンはあり得るし、時には実際に起こっているということでもあります。

 日本は解雇に対して色々と規制がかかっているため、通常は上記のようなことは起こりません。しかしこのことが、従業員が必要以上に会社や役所などの組織に依存してしまう原因にもなっていると私は考えています。米国のようなドライな関係と比較して、組織とは基本的に従業員を守ってくれるものだという安心感、もっと言えば甘えが生じやすいからです。

 しかしながら、あなたがもしも事故や病気など、何らかの理由でこれまで通りのパフォーマンスを発揮することができなくなったら、それまであなたがどれほど組織に尽くしてきたとしても、その組織は基本的に何も助けてはくれません。なぜなら組織というのは誰か特定の個人ではなく、個人の集まりによって構成される、概念的なものだからです。大企業であれば、短期/長期の傷害保険に加入しているかもしれませんので、ある程度のサポートはあると思いますが、中小企業ではいかがでしょうか?

 会社の上司として部下に言いにくいことは、個人として責任を負うことなく、会社を主語にして語ることができます。「会社が認めない」「会社としては難しい」という類のいい回しです。本当は誰かが「認めない」という判断をしているはずなのですが。

 米国ではスタートアップベンチャーであっても、通常の医療保険に加えて短期/長期の傷害保険に加入ができました。非常に安い掛け金で、仕事ができない状況になっても、条件を満たせばその人の給料の半分から3分の2程度が、何年間にもわたって(具体的な数字は保険プランによります)支払われます。そういった福利厚生がないと、いい人材は雇えません。

 今回、私は結論を持っていません。ただ上記のようなことを考えたときに、従業員としては所属する組織にどの程度の忠誠心を持つべきなのか、あるいは持つべきではないのか、自分の人生の中で組織における仕事の優先順位は、他のことと比べてどの程度に設定すべきなのか、といったことはよく考えるべきではないかなと思うのです。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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