シリコンバレー創薬騒動(第28回)

リスクは避けるものではなくコントロールするもの

(2017.09.08 00:00)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 世の中にゼロリスクなるものは存在しません。当たり前だと思われるかもしれませんが、意外と認識されていないように思います。多くの人はリスクとはできるだけ避けるべきもの、あるいは避けたいものと思っているのではないでしょうか? しかしながら、リスクというのは常にリターンと対になっていますから、あるリスクを避けるということは、それに対応したリターンを諦めることでもあり、多くの場合で何か別のリスクを抱えるということでもあるのです。つまりリスクというのは避けるものではなく、コントロールするべきものなのです。

 ちょっと極端かもしれませんが、例えばこういうことです。交通事故に遭うのが嫌だと思ったら、家から出なければいい。そうすれば車が家に突っ込んででも来ない限り交通事故には遭わないでしょう。しかしずっと家から出ずにいれば、肥満からさらに重大な病気、例えば糖尿病や動脈硬化などを引き起こす可能性が上がるかもしれません。つまり交通事故というリスクを避けたがために、重病にかかるリスクを取ってしまうわけです。

 もう1つ別の例で言うと、資産を失うのが嫌だからと、タンス預金やほとんど利息がつかない昨今の定期預金だけにしていると、世の中がインフレになって物価が上がってしまった場合、資産が相対的に目減りしてしまうリスクを取っていることになります。今なら1万円で買えるものが、来年には1万200円になっているかもしれず、今持っている1万円をそのまま置いておいたのでは、同じものが来年買えなくなる可能性があるということです。

 実際のところ、私たちは普段意識せずにリスクコントロールをしています。事故のリスクはあるけれども車を運転したり、タクシーに乗ったりする。乗り物全般、列車でも飛行機でも同じことが言えます。アメリカの大統領と副大統領が同じ飛行機に乗らないというのも、分かりやすいリスクコントロールですね。お酒やたばこを嗜む人は、健康への悪影響へのリスクを取った上で、それでも飲んだり吸ったりするという判断をしています。食品とか衣類とか、さらにはマイホームなどでも、質は悪いかもしれないけれど安さを優先する人と、それは嫌だからと高いものを優先する人では、それぞれが違ったリスクの取り方をしているといえます。

 余談ながら私は、ある時から船で海に出ることを原則としてやめました。本当は舟釣りとかしたい気持ちはあるのですが、それ以上に、あらゆる死に方の中で、海で溺死するのだけは絶対に嫌だからです。海で溺死しないためには海に出なければいいわけですから、これは私なりのリスクコントロールの1つです(笑)。

 数万分の1の成功確率といわれる医薬品開発のようなプロジェクトは、無数のリスクの固まりです。全体として膨大なリスクを取りながら、何十本もの針の穴を通すような仕事の連続の先に成功があります。そこではリスクの適切な評価と、それをどうコントロールするか、研究開発および経営の両面からの判断が非常に重要になるのは当然といえるでしょう。

 リスクは避けるものではなくコントロールすべきというのはつまり、どのリスクを取り、どのリスクを取らないという取捨選択を、自分の意志で行っていくということなのです。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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