本連載の最初の方で、英語についてはまたあらためて書くとしていましたので、研究職としての私の英語力の実態を紹介しておきましょう。言葉の問題は、日本人が海外で働こうという場合に避けて通れない大きな問題ですので。

 米国のベンチャーで十数年働いていましたので、赤間は英語がペラペラに違いないと思われることが多いわけですが、これは本当に大きな誤解です。全くできない人から見たらあるいはそう見える可能性もあるかもしれませんが、自分の中ではペラペラの半分、せいぜい「ペラ」ぐらいです。

 私の場合、自分が言いたいことを伝えるのは、それなりの年月を経てまあまあできるようになりました。ではなぜそんなに自分の英語に自信を持てていないのかというと、ずばり、リスニングです。十数年暮らした今でも、相手の言っていることが聞き取れないことが本当に頻繁にあるのです。TOEICのリスニング問題のような英語ならば問題ないのですが、実社会の英語は全く違っていて、しかもシリコンバレーの英語はこれでもかというほど多種多様です。

 ほぼ世界中のありとあらゆるイントネーションや発音が異なる英語がこの地域には集まっているというのが、1つの理由かもしれません。しかしながら、ネーティブスピーカーはもちろん、非ネーティブでさえも、多くの人はこういった違いがあってもちゃんと聞き取れています。もう1つの理由は、私が渡米したのが30代後半とやや遅めだったため、外国語を学ぶという点で根本的にハンデがあるのかも知れません。まあ理由が何であれ、とにかく私はリスニングが苦手です。

 ただしそんな私でも、米国のベンチャーで大きな問題もなく仕事ができていたのは、小さな会社の研究職だったことが大きいと思います。日常的に話をする必要がある同僚や他部署の人たちはせいぜい20人程度で、同じ人が話す英語にはしばらくするとかなり慣れるからです。また研究職の場合、自分が発信しなければならない最も重要なことは研究の進捗や成果です。そしてこれらはスライドにまとめてプレゼンするか、文書でのリポートにする場合がほとんどです。重要なデータ類は全てスライド上に示しますので、極端に言えば、これがこうなった、あれがああなったという感じで、「これ」「それ」「あれ」だけでも最低限は何とかなってしまいます。

 ただし読み書きレベルとしては、学術誌への英語での論文発表が、辞書や添削サービスを使ってでもいいので、ほぼ自力でできる程度であることが前提となります。アカデミアであれインダストリーであれ、研究者として生きていくには、その部分は必須だからです。

 偉そうに書いていますが、私自身は大学を出て就職をしてしばらくの間、英語に関しては極力避け続けて、30歳を過ぎた辺りでようやく、このままではまずいかもと気が付いたような人間でした。逆に言えば、それぐらいからでも何とかなるということでもあります。

 渡米間もない頃は、あまりに貧弱な自分の英語力によるコミュニケーションの困難さに、諦めて日本に戻ろうかと何度も思いました。そういうときに私を救ってくれたのは、シリコンバレーの青空でした。快適な空気を吸って毎日の青空を見上げると、やっぱりもうちょっと頑張ってみようかなと思えたのです。その結果が「ペラ」程度(笑)ではありますが、それでも大きな問題なくやってこられました。つまるところ、気持ちさえ前向きでいられれば、言葉の問題もその他の問題も、大抵は何とかなるものなのかもしれません。