シリコンバレー創薬騒動(第21回)

CROとの付き合い方

(2017.07.14 00:00)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 以前アウトソーシング戦略の重要性について書きましたが、私たちが実際にどんなふうに外部の会社や人材と付き合い、日々の仕事を行っていたのか、もう少し細かいことをご紹介します。

 シリコンバレーのバイオテクの、特に研究部門ではアジア出身者の割合が高く、中でも中国系の研究者が一番多いと思います。医薬品開発受託機構(CRO)ビジネスは中国で爆発的に発展しました。これは以前にも書きましたが、欧米メガファーマのダウンサイズによって、多くの中国出身者が母国に戻って起業したからです。従って、彼らは最初から欧米の医薬業界と多くの人脈を持っていました。

 新しいCROが立ち上がると、上記のような人脈を生かして、ビジネスデベロップメント(BD)担当者が欧米の大小の製薬企業への営業に回ってきます。こちら側につながりの深い社員がいて、信用できる相手だと分かっていると話が早いですが、そうでなくてもよさそうな会社だと判断すれば、通常FFS(Fee For Service)といって、単発のプロジェクトを試してみます。私たちの場合だと、例えば再合成が必要な化合物を作ってもらうといったような、正しくやればできることが分かっている仕事から始めます。

 その仕事のクオリティーが期待通り、あるいは期待以上に良いと判断されれば、次に新規化合物の合成を試してみたり、一気にFTE(Full Time Equivalent)契約に進む場合もあります。

 予算が付いて本気で進めることが決まっているプロジェクトは、通常FTE契約で進めます。チームのサイズは小さいと2人、大きいときには10人以上とまちまちです。サイズの大小にかかわりなく、プロジェクトごとに毎週1回リポートを送ってもらい、それを基に電話会議を行って仕事の進捗を確認し、必要な指示を出したりします。CRO側には各グループに英語が話せるリーダーがいて、電話会議はそのリーダーと、場合によってはさらに上の上司も含めて行います。私は最も多かったときで4つのプロジェクトを担当していて、週に4回、それぞれのチームとの電話会議を行っていました。

 中国のCROとの仕事が多かったのは、上記のような人脈上の理由もありますが、西海岸との時差が15-16時間なので、西海岸の夕方が中国の朝となり、電話会議が設定しやすかったこともあります。東海岸だと時差が12-13時間になるので、ちょっとやりにくいと思います。私たちはインドのCROとも仕事をしましたが、西海岸とインドとは12時間前後の時差になるため、ルーチンの電話会議は設定せず、メール中心でのコミュニケーションになりました。

 低分子医薬の合成研究の場合、合成してほしい新規化合物(ターゲット)の構造を送り、合成ルートはCRO側に任せる場合とこちらから指示する場合、あるいはそれらのミックスの場合があります。新規化合物は、恐らく問題なくできるだろうと思われるものや、やってみないとできるかどうか分からないものなど、その難易度はケース・バイ・ケースです。ですので、常に臨機応変な対応が必要になります。時にはこちら側で追試してみたり、条件検討を行ったりすることもあります。

 新しいターゲットは、生物活性やPK(pharmacokinetics)などのデータを基にしてデザインします。構造活性相関は重要なデータなので、新規ターゲットのデザインは通常こちら側で行い、CROに生物系のデータを開示することはまれです。ただCROサイドとしても、次々に送られてくるターゲットの化学構造を見ているので、大まかな方向性は分かります。優秀なグループリーダーだと、こんな化合物はどうですかと提案してくる場合もあります。

 いくら頻繁にやりとりしているからといっても、いつもメールや電話だけだと、チームとしての連帯感を育むのは困難です。そこで1年か2年に1度、実際にCROを訪問して、担当チームとのface to faceミーティングを行って、日頃の仕事への感謝の気持ちや、お互いのフィードバックを伝えたりしました。

 2000年代は色々な意味でCRO側も発展途上でしたが、CRO間の競争が激しいこともあって2010年以降はレベルも大幅に向上し、ここ数年は驚くほどいい仕事をしてくれるようになりました。これはあくまで個人的な見解ですが、今後またこうした仕事をするとしたら、少なくとも合成化学に関しては、私は全てCROに任せたいと思っています。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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