シリコンバレー創薬騒動(第17回)

「一般社員」というビジネスモデル

(2017.06.16 00:28)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 シリコンバレーというと、起業家の聖地というイメージをお持ちの方が多いと思います。それはその通りなのですが、だからといって起業家ばかりがいるわけではありませんし、誰もが起業家である必要もありません。当たり前のことではありますが、そんなお話を。

 一般論として、起業家だけがいてもビジネスは回りませんし、そもそも始まりさえしません。スマホアプリの作成のようなビジネスであれば、中には全てを1人でやってしまうような人もいますが、バイオ系のスタートアップになると、研究も開発も1人でできることではありませんから、複数の人たちの参加があって初めて会社は動きます。

 そういう意味で、いわゆる一般社員もスタートアップの必須アイテムなのです。自分がファウンダーにならなくても、誰か他の人が起こした会社に加わって、そこの戦力となることで活躍する道はたくさんあります。ご存じの通りシリコンバレーでは日々、多くのスタートアップが生まれているからです。

 そしてそういった一般社員であっても、会社が成功した暁には、ストックオプション制度により思わぬ大きなリターンが得られる場合もあります。もちろんスタートアップが成功する確率は高くはありませんが、ゼロでもありません。そしてチャンスは1回きりではありません。

 ベンチャーキャピタルは、複数の企業に分散投資することでリスクを管理し、トータルでのリターンを狙います。これに対して個人は、一度に複数の会社で働くのは困難です。コンサルタントとして複数の会社と契約する場合もありますが、大きなリターンを期待するためには、フルタイム社員として1つの会社にコミットする必要があります。そして重要なことは、かなり早い段階で加わることです。

 早い段階というのは、できればシリーズAか、遅くともBあたりまででしょうか。ベンチャーのリスクは最初が最大です。研究開発が進み、ポジティブな結果が増えてくるにつれ、リスクは低下していきます。リスクとリターンの関係は常に比例しますから、ハイリターンを得るにはハイリスクを取る必要があるのです。

 スタートアップの成否は早ければ数年、遅くとも10年前後で大体めどがつきます。チャンスは1回きりではないというのはそういうことで、1社が駄目でも2社目、3社目と挑戦することが可能です。同時に複数の会社で働くのは無理だとしても、時間軸に沿って自分の労働力という資源を分散させて、生涯の間に複数の会社で働くことは可能です。そしてその中の1つでも当たればいいのです。

 これが、一介の研究員としてスタートアップに加わった当時の私が考えていた、一般社員としてのビジネスモデルです。もちろんこれは研究職に限らず、他の職種でも同様ですし、VP(バイスプレジデント)やDirectorなどのようにより高いポジションで加われれば、うまくいったときのリターンはずっと大きくなります。

 自分が起業したい人はどんどんすればよいと思いますが、そうでない人にも、スタートアップで活躍し成功する道はあるのです。そのためにはどんなスキルを身に付け、経験を積んでおくべきなのかを考えてみることは、年齢に関係なく意味のあることだと私は思いますが、いかがでしょうか?

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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