シリコンバレー創薬騒動(第12回)

ポジティブフィードバックの重要性

(2017.05.12 00:03)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 前々回の「日本の研究者の強み」というコラムの中で少し触れたように、米国には「物事をいちいち大げさに褒めるというカルチャー」があります。褒め上手であるというのは、米国では良いマネジャーであるための必須条件の1つです。マネジメント用語ではポジティブフィードバックと言いますが、これはマネジメントトレーニングのような研修プログラムでもしっかりと教えられます。

 私が知る限り、こちらはとにかく褒め上手な人が多いです。それは多くの人が子供の頃から、家庭、学校、クラブ活動などのあらゆる場面において、とにかくこれでもかというほど褒められまくって育ってきているからなのだと思います。人は褒めて伸ばす、というのが、国全体のカルチャーとして根付いているのだと、子供たちの学校の先生方やスポーツのコーチなどを見ていても感じたものです。

 かくいう自分も、いい年になっているにもかかわらず、何かにつけ褒められるとやっぱりうれしいのです。別に当たり前のことをしただけなのに、と思ったとしても、少なくとも悪い気はしません。そしてもっと頑張ろうという気になってしまいます。それを実感すると、やっぱり人は褒めた方が伸びるし、仕事においてもお互いの生産性が上がるという好循環になるのだと思います。

 シニア層から見ると、若者に駄目出しをしたくなる気持ちも十分分かります。日本ではそうやってむち打つように鍛えることで培われてきた匠の技のようなものもあるとは思います。しかしそれとて、褒めて伸ばすやり方でも同様な結果が得られる可能性はあると思いますし、もしかしたらそれ以上のことにさえなるかもしれません。

 先月の某航空会社の乗客引きずり降ろし事件のように、現代のネット社会は、ネガティブな出来事はあっという間に拡散し、炎上してしまいます。恐らく人間のさがとして、ネガティブな出来事や経験はすぐにどこかに吐き出したくなるのでしょう。

 しかしながら、ポジティブな経験というのは、ネガティブなものに比べると、発信される頻度が低いように思います。嫌な思いをしたことはすぐにでも吐き出したくなるのに、いい思いをしたことは、意識しないとSNSなどであえて発信されないことが多いのです。

 これは実は世の中的にも大変もったいないことです。別にSNSで発信する必要はありませんが、いい仕事をした、助かった、ありがたかった、などなど、良かったことを良かったと当事者に伝えることで、相手もそれは良かったんだと確認できますし、お互いに幸せの輪が広がります。これは同僚、上司、部下、顧客や取引先など、あらゆる関係の相手に対して言えることだと思います。

 さらに言えば、これは日経バイオテクの枠を超えてしまうかもしれませんが、仕事関係だけでなく、家族や恋人、友人などとのプライベートな関係においても、常に心掛けるべきことだと思います。

 私自身、ポジティブフィードバックは意識しないとなかなかできないのですが、皆さんも今までよりもうちょっと、意識して行ってみてはいかがでしょうか?

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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