シリコンバレー創薬騒動(第9回)

緩急の重要性

(2017.04.14 00:00)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 前回フレックス勤務について書きましたが、フレキシブルに仕事ができるということは、つまり緩急がつけられるということでもあります。緩急の重要性を語るに当たって、大変失礼で申し訳ないのですが、しばらく前のサッカー日本代表に例えると分かりやすいので、私はよくこの話をしています。日本代表のフォワードは攻撃だけでなく献身的な守備も求められます。つまり自陣のゴールエリア付近から相手のゴール前まで約90メートルもの間を何度も行ったり来たりしなければなりません。これでは当たり前ですが非常にスタミナを消耗します。

 これに対して相手のセンターバック(ディフェンダー)は味方のコーナーキックなどのセットプレー以外ではめったに攻撃に出て来ないので、単純に考えればスタミナの消耗は日本のフォワードより少ないことになります。この条件下で、日本のフォワードには決定力が求められます。つまり相手のディフェンダーよりたくさん走ってへろへろになりながらも、そのディフェンダーを抜いたりかわしたりしてシュートを決めなければならないのです。

 この構図は日本の社会一般でも当てはまる場合が多いのではないでしょうか? 常に100%かそれ以上の働きを求められ、その上さらにブレークスルーやイノベーションという名のゴールを求められる。そんなことが可能なのでしょうか?

 昔のブラジル代表のロナウドというフォワードの選手は守備をしないので有名でした。常に前の方にいて、味方のピンチでも自陣に戻らずにぼけっとしている、ように見えました。ところが一転して味方が攻撃に転じ、彼にパスが通ると、1人で相手ディフェンダーの2人や3人はさくっと抜き去ってゴールを決めてしまうのです。サッカーでもその他の仕事でも、最も重要なのはゴールを決めることで、その過程でどれだけ頑張ったかではありません。そういう意味で、様々な現実の事情はさておき、理想的なのはロナウド的なやり方であることは間違いありません。

 ちょっと意地悪な言い方になってしまうかもしれませんが、ゴールを決められなかったときの言い訳のために、取りあえず守備も献身的にこなしておく消極的なフォワードのようなプレーヤーが、一般社会にもいるのではないでしょうか? ポジション上はフォワードでありながら、捨て身の覚悟を持ってゴールを狙いに行く勇気を持たず、自らの保身のために守備に精を出していたのでは、そのチーム(組織)はいつまでたってもゴールなど達成できないことになります。

 あくまでも狙うのはゴール。そのために重要なのが「緩急」なのだと、シリコンバレーに長く住むにつれ、確信するようになりました。そこには、ある種の開き直りも必要になります。ですが、もしも結果が出なかったら、煮て食うなり焼いて食うなり好きにしてくれ、というぐらいの気持ちでやってみると、思わぬ結果が出たりするものです。たとえ結果が期待通りでなくても、捨て身の覚悟でやってみたことは、意外といい評価を受けたりもします。

 話がややそれました。人間に限りませんが、生き物は常に全力疾走していたら、ここぞというときに瞬発力が出ません。アメリカ社会ですごいなと思う点の1つは火事場のばか力的な緊急時の強さなのですが、それは平時の暇なときはしっかりリラックスしているからこそ発揮できるのだと思います。まあリラックスし過ぎで、時にはイラッとすることもあるのですが、多分それぐらいでいいのではないか、と今では思っています。

 A社で最初の薬の創出につながるブレークスルーを提供した元同僚も、仕事上のいいアイデアは家でシャワーを浴びているときに思いつくことが多いと言っていました。これも緩急の重要性を示していると思います。前回のフレックスタイムの話と行き着く先は同じで、適度な緩急があった方が、結果的に生産性は上がるのです。リラックスしているとさぼっていると思われがちな日本の組織も、一人ひとりがそれぞれのペースで、緩急をつけながら仕事をすることがもっと奨励されるようになるといいなと思います。

 日本に関してややネガティブなことを続けて書いてしまいましたので、次回は日本のいいところを挙げてみたいと思います。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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