シリコンバレー創薬騒動(第5回)

クリティカルパスを見極めろ!

(2017.03.27 00:02)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader
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 What is the critical path?

 まずクリティカルパスというのが何かがわからないといけません。Wikipediaに説明がありますが、初めて見る人にはちょっとわかりにくいかもですね。

(この連載は、赤間勉氏の同タイトルのブログ記事を、許可を得た上で転載しています)

 あるプロジェクトを行う場合、そこには様々な要素(タスク)があります。一般的なものでは企画、設計、デザイン、制作、広報、販売、などなど。医薬品の研究開発でも例外ではなく、作用の最適化、吸収、体内動態、安定性、溶解性、安全性、製造コスト、などなど多くのことを幾つも並行して最適化してゆく必要があります。ただし依存性(addictionではなくdependency)といって、あることが終わらないと次のことができないという関係にあるタスクもあります。例えば安全性試験に必要な化合物の量が100グラムだったとすると、まずこの化合物を100グラム作らないと安全性試験が開始できないといったようなケースです。このような点も考慮して、プロジェクトを1つ1つのタスクに分解し、プロジェクトの完遂に必要かつ十分なタスクを時系列で並べます。時には枝分かれして並行したり、また合流したりします。あらゆる道筋の中で、必ずしもタスクの数ではなく、時間的に最長となる道筋が、クリティカルパスになります。

 もうちょっと分かりやすい例として、図のようにラーメン屋さんでラーメンを出すプロジェクトを考えます。枝分かれしていますが、通常は麺を茹でるのに1分半から2分程度かかりますから、タスクB→CよりもタスクD→Eの方が時間がかかります。したがってこの場合のクリティカルパスは青矢印のA→D→E→Fとなります。しかし将来、3秒で茹で上がる麺が開発されたとします。そうなると、タスクB→Cの方がタスクD→Eよりも時間がかかるかも知れません。その場合、クリティカルパスは赤矢印のA→B→C→Fとなるので、全体の時間を縮めるためには今よりも素早く丼を温めてスープを入れるために、丼はあらかじめ温めておくといった改善策を考えることになります。

 このように、クリティカルパスをきちんと把握することができれば、プロジェクト全体を最適化するためにどのタスクにフォーカスして改善すべきなのかが明確になるのです。

 ベンチャーの経営においては、最短時間と最小出費で必要十分条件を過不足なくカバーし、ゴールにたどり着くことが最優先事項です。そのためにはクリティカルパス上のタスクその1つ1つを最短時間に切り詰めていくことが重要であり、このあたりをコントロールするのがプロジェクトマネージャー(PM)の仕事ということになります。

 研究者というのは、放っておくとつい寄り道というか、余計なことをしてしまいがちです。ちょっとおもしろいデータがあったときに、本来の目的とは直接関係なくてもそちらを追求してしまったり、念のためといって周辺のデータを必要以上に集めたり……といったことを最小限にするべく目を光らせるのもまたPMの仕事になります。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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