シリコンバレー創薬騒動(第4回)

最大のリスクは何か?

(2017.03.24 00:02)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 新しいことをやるには多くのリスクを伴いますし、そもそもやる前から結果がわかっている研究開発などありません。さらに厄介なことに、やり方を間違えるとうまくいくはずのものもうまくいかなくなる可能性さえあります。A社の2剤の研究開発が成功した理由として、ラッキーなこともたくさんありましたが、それぞれのプロジェクトが正しく遂行された、すなわち各段階で完了すべきタスクが正しい優先順位で行われたということが非常に重要だったと思います。短い言葉でいえば、プロジェクトマネジメントが正しく行われたということです。

(この連載は、赤間勉氏の同タイトルのブログ記事を、許可を得た上で転載しています)

 このプロジェクトマネジメントの具体的な手法は、私がA社で学んだ最も重要なことの1つだと思っています。

 具体的な手法といっても、そのエッセンスはたった3つのキークエスチョンです。これらについては以前、以前にブログでも書いたことがあるので若干重複しますが、あらためて3つの質問について書いておきます(関連のブログ記事へのリンク)。今回はその一番目。

 What is the biggest risk?

 (現時点で)最大のリスクは何か?という問いかけです。私がいたのは製薬業界で、その中でも新薬の研究開発(創薬)の会社です。従って会社のプロジェクトのゴールは新薬を開発して上市(発売)すること。しかしながら新薬の開発というのは、ほとんどがうまくいかない上に、万が一うまくいっても10年以上かかることが当たり前なプロジェクト。今できたばかりの化合物が薬として発売される(かも知れない)のは10数年後とかになる、それはそれは気が遠くなるようなビジネスです。

 そのような長いプロジェクトですが、ある意味そうであるからこそ、日々のプロジェクトマネジメントが重要になります。特にベンチャー企業がやろうとすると、お金や人手などのリソースに厳しい制限がありますから、最小限の仕事量で最高の効率と最大の成果を目指し、結果的に最短時間でゴールに到達しなければなりません。その時に重要なことの1つが、現時点で最大のリスクは何かを見極めることなのです。

 新しいプロジェクトというものはリスクだらけです。創薬の場合、試験管レベルの効果が動物レベルでも再現できるのか、例えば飲み薬の場合、ほどよく溶けるのか、胃や腸からちゃんと吸収されるのか、肝臓で分解されないのか、血液中でも安定なのか、思わぬ毒性は出ないのか、安定した品質のものを作れるのか、そのコストは許容範囲なのか、最終的にはヒトに安全で有効なのかなどなど、開発ステージによって山ほどのリスクがあります。それぞれの段階で、フォーカスすべきリスクは何なのかを確認しようということです。その時点で最大のリスクとは、もしもその時点で取り去ることができればプロジェクトの成功確率が最も増加するリスクということです。これは開発のステージが進むにつれ、変わっていきます。

 もう少しわかりやすい例でいうと、「アイドル歌手のコンサート」というイベント(プロジェクト)を企画したとします。日程や会場やチケットの値段や集客の方法やスタッフの確保など、考えること、決めなければいけないことがたくさんあります。それらの中で、一番最初にやるべきことは何でしょう?つまり一番最初につぶしておくことで、そのコンサートの実現の可能性が最も高くなること、これが最初の時点での最大のリスクになります。

 それは恐らく、呼びたいと思っているアイドル歌手または所属事務所に、そのコンサートをやってくれる気があるかどうかの確認ではないでしょうか?会場やスタッフなどをいくら用意しても、本人や事務所にそんなコンサートやりませんと言われたら全ておじゃんです。しかし最初に、いいですねそれやりましょうと言ってもらえていれば、半分は実現したようなものです。ですからこの場合、最初につぶすべき最大のリスクは「当事者の意思」ということになります。それがOKなら、次のステップとして日程や会場といったことを順番に詰めていけばよいのです。

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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