シリコンバレー創薬騒動(第3回)

なぜホウ素?

(2017.03.23 00:05)
赤間勉=元Anacor Pharmaceuticals社, Research Leader

 A社が設立され私たちが研究を開始した時点では、ホウ素を含んだ医薬品はこの世に存在しませんでしたが、会社設立1年後の2003年に米Millennium Pharmaceuticals社が、Velcadeという、米食品医薬品局(FDA)から世界初となるホウ素含有医薬品(抗癌剤です)の認可を受けました。ですのでホウ素含有医薬という意味では、2014年に認可されたKerydinは2番目、そして2015年に上記Velcadeの後発品も認可されたため、2016年のEucrisaは4番目のホウ素含有医薬品ということになります。

(この連載は、赤間勉氏の同タイトルのブログ記事を、許可を得た上で転載しています)

 お気づきかも知れませんが、2014年から2016年まで3年連続で、毎年1剤のホウ素含有医薬品がFDAから認可を受けました。ホウ素含有医薬品の認可ラッシュと言える状態です。

 上記の事実以外にも、特許の出願動向を見ているとわかるのですが、過去10年ほどの間に、多くの製薬企業が含ホウ素化合物を含む特許を出願するようになってきました。Millennium社の研究開発陣のみなさんと共に、私たちはホウ素含有医薬という低分子医薬品の新しいカテゴリーを創出したと言ってもいいのではないかと思っています。

 ただし、Millennium社のVelcade系の化合物とA社の**boroleシリーズは、どちらも含ホウ素化合物とはいえ、化学構造的にはけっこう大きな違いがあり、細かい話にはなりますが、少なくとも私の主観の中では別物と考えています。

 それにしても、なぜホウ素?ホウ素の何がいいの?という疑問があると思います。とはいっても化学の話は聞きたくない(><)という方が大部分でしょうから(笑)、できるだけ簡単な説明をがんばってみます。

 医薬品のほとんどは、炭素ベースの骨組みに水素、窒素、酸素、フッ素などといった元素がくっついたり、間に入り込んだりしてできています。炭素には結合を作る手が4本あると昔習った記憶がおありかも知れません。いずれにしても炭素は手が4本で固定と思ってください。これに対してホウ素は、手が3本の状態と4本の状態を行ったり来たりすることができるのです。

 この性質により、ホウ素化合物は炭素ベースの薬とは違う形で、体の中の蛋白質(酵素など)や核酸(RNAなど)に対して作用することができます。つまり今までの薬ではできなかった働きができるケースがあるということで、この特殊な性質のおかげで実際に新しいタイプの薬が幾つかできましたし、さらに別の新しいものもできる可能性があるということです。

 ガッテンいただけましたでしょうか?

赤間勉(あかま つとむ)
元 Anacor Pharmaceuticals, Research Leader
赤間勉 1964年生まれ。89年協和発酵工業(当時)入社。主に新規抗癌剤の合成研究を行う。2001年米Geron Corporation社(カリフォルニア州メロンパーク)入社。テロメラーゼ関連医薬の合成研究。03年米Anacor Pharmaceuticals社(カリフォルニア州パロアルト)入社。抗炎症薬および感染症治療薬の合成研究に関わる。この間、年を追うごとに趣味の料理に割く時間が増え、将来は飲食店の開業を目指している。ブログもやっているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
 このコラムは、米バイオテク企業にスタートアップから参加し、大手製薬企業に買収されるまで同社で研究者として過ごした赤間勉氏による手記です。赤間氏は、協和発酵工業、Geron Corporation社を経て、2003年6月にバイオテク企業の米Anacor Pharmaceuticals社に入社し、2016年6月の米Pfizer社による買収を経て、2016年12月まで研究者として勤務しました。シリコンバレーに拠点を持つバイオテク企業の内側から見た実像を伝えていただきます。

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