BIOTAの伊藤光平代表取締役。健康を増進するために、意図的に生活に微生物を取り込む「加菌」を展示で提案した
BIOTAの伊藤光平代表取締役。健康を増進するために、意図的に生活に微生物を取り込む「加菌」を展示で提案した

 日本科学未来館の展示に、2022年4月20日から新たなコーナーが加わった。題は、「セカイは微生物に満ちている」。環境マイクロバイオームの事業化を目指すスタートアップ・BIOTA(東京・千代田)の、伊藤光平代表取締役が監修したものだ。生活空間の微生物をあえて増やすことで、疾患予防などの健康効果を追求する──そんな独自の構想が同館の関心を誘い、展示が実現した。スタートアップの描く未来像が科学館で展示されるという、新たな科学コミュニケーションの形を見た。

微生物の多様性が健康を作る

 展示は、同館3階のスペース「ビジョナリーラボ」内に設置。微生物の定義や体表の常在菌、マイクロバイオームの存在を紹介した後、話題は微生物の多様性へ移る。パネルの1枚(写真1)では、人の居場所にどの程度の微生物多様性があるかを比較している。伊藤代表取締役が手掛ける研究の結果で、論文化の途上にあるものだという。

写真1
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微生物多様性をグラフ化したもの。高い位置ほど多様性が高い。左から、公園、住居、病院、オフィス
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 住居・病院・オフィス・公園といった、人の活動場所で採取された微生物叢の中に、何種類の微生物が含まれるかを比べている。実験データは別の研究で取られたもので、公開されたデータを伊藤代表取締役が再解析した。微生物の多様性は公園がトップで、次に住居、病院、オフィスと続く。伊藤代表取締役は「不特定多数の存在が出入りしやすい場所ほど、微生物の多様性が高い」と話す。

 この微生物多様性の違いが、展示の肝となる。伊藤代表取締役は展示全体を通じ、微生物の多様性を高めることで健康度を高めるというアプローチを提唱しているためだ。

 展示の後半では、微生物の多様性が低い環境では、免疫力の低下や薬剤耐性菌といったリスクが高まると指摘する。外との間で空気や物の行き来が少なかったり、除菌が習慣化していたりすると多様性が下がるという。そこで、健康を増進するために、意図的に生活に微生物を取り込むことを提案する。

写真2
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BIOTAで開発中の、室内へ有用微生物を散布するデバイス「GreenAir」

 たとえば、住居に微生物を取り入れる手法として、窓からの換気や微生物を通す換気扇があり得るという。住居を模した展示スペースに、実際に窓や換気扇を配置してイメージを喚起する。その他、BIOTAで開発中の、環境由来の微生物を空気中に撒く装置(写真2)もある。除菌するのと反対に、意図的に微生物を増やす「加菌」を提唱し、「生活空間の微生物の種類を増やすことが、病原菌の一人勝ちを防ぎ、健康を守ることにもつながる」(伊藤代表取締役)と呼びかける。

とがった発想がコラボの発端に

 伊藤代表取締役は1996年生まれの若手研究者。BIOTAも設立から3年ほどの若い企業だ。科学館の展示に携わる研究者は分野の権威で、ベテラン・・・そう思っていた記者としては、新鮮に感じた。

 この展示は、日本科学未来館側から伊藤代表取締役への働きかけで実現した。発案者は、伊藤代表取締役と同年代で、同館科学コミュニケーターの岩澤大地氏。インターネットで偶然、伊藤代表取締役のことを知り、「このコロナ禍の時代に、『微生物多様性』を軸に積極的に活動しているのがとても魅力的だった」(岩澤氏)という。

 「加菌」の発想も斬新に映った。ポストコロナを見据えるタイミングだったこともあり、「他の人が思いつかない、先端的な発想ほど、科学コミュニケーションで広めたい」(岩澤氏)と展示作成に至った。

 展示方法の新しさにも、若手二人の発想を生かしてこだわった。「難しい文面や見慣れた仕掛けは作らない」(伊藤代表取締役)との意思があった。その結果、物を多く配置し、文字数を削った展示が完成。岩澤氏は「子供の来場者にも直感的に理解しやすいようだ」と評価する。

展示スペース前には目立つネオン調で「微生物多様性」のキーワードを掲げる
展示スペース前には目立つネオン調で「微生物多様性」のキーワードを掲げる
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ポップなイラストや、広がりのある空間で直感的な展示を目指した
ポップなイラストや、広がりのある空間で直感的な展示を目指した
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 ビジョナリーラボでは、日本科学未来館が注目した研究者が、自身の研究に関連する展示を監修する。場所自体は常設だが、展示内容は1年ほどで入れ替わる。伊藤代表取締役が手掛けた展示の期間は4月の開始からおおよそ1年の予定。今回に限らず、日本科学未来館では斬新で、人を巻き込む魅力のある研究テーマを持つ人に、展示の監修を希望するという。本誌で紹介しているバイオスタートアップ関係者にも、魅力的な展示を作れる人が大勢居そうだ。