私達は2007年に、一部の肺がんにおいて2番染色体内の微小な逆位が生じ、ALKチロシンキナーゼの酵素活性領域がEML4のアミノ末端と融合したEML4-ALKがん化キナーゼが作られていることを発見しました。ちょうど慢性骨髄性白血病のように、染色体転座の結果融合型チロシンキナーゼが固形腫瘍においても作られていたのです。これは「染色体転座による発がんは造血器腫瘍特異的だ」と言う旧来の常識を打ち破るものであるとともに、第二のグリベックが固形腫瘍にもたらされることを予見させる出来事でした。

 実際、我々の発見を受けて多くの製薬会社でALK阻害剤の開発競争がスタートし、既に1社は第I/II相試験を終了してその劇的な治療効果を発表しました。我が国においてもこのALK阻害剤の第III相試験が始まると共に、既に別の製薬会社によるALK阻害剤の第I相試験も開始されています。

 グリベックや上記ALK阻害剤は、旧来の細胞毒としての抗がん剤とは全く違うレベルの効果を発揮するだけでなく、他の様々な分子標的療法と比べても単剤で圧倒的とも言うべき有効性を示しています。グリベックやALK阻害剤がこれほど有効なのは、これら阻害剤がそれぞれのがん腫における本質的な発がん原因分子(BCR-ABLやEML4-ALK)を押さえ込むからに他なりません。そして今日においてこの様な劇的な分子標的治療薬の数がまだ少ないのは、多くのがん腫において「本質的な発がん原因分子」が未だ謎だからだと言えます。従って第二のグリベック、第二のALK阻害剤を開発する上で最もクリティカルなことは、それぞれのがん腫における発がん原因を解明することです。諸外国における大規模ながんゲノムシークエンスプロジェクトも、もちろんこの流れの一環です。

 我々も第二のALK阻害剤開発を可能にするべく、独自の技術をもちいて第二のEML4-ALKを発見できるよう邁進するつもりです。