現在、本邦での再生医療の実践は、(1)薬事承認を求めない臨床研究、(2)薬事承認を求める医師主導治験・企業治験、(3)上記のどちらでもない自由診療の3つの形態で行われている。一部有識者と厚労省は欧米に習い、臨床研究ではなく治験として行うべしとの見解を表明しているが、予算的にも人的資源的にも欧米に比して圧倒的にプアであり、かつ規制当局が柔軟性をもたない日本で、欧米の形式の後追いをすることは患者の側から見ても不幸だというのが私の意見である。

 このような背景のもと、2011年の再生医療として注目したいのは(3)である。主としてクリニックで、十分な前臨床研究もないまま患者に細胞(多くの場合、自家細胞)を投与する再生医療がすでにかなりの数おこなわれていることは、ウェブで検索をかけると多数のヒットが得られることからも明らかである。事情は海外でも同様で、国際幹細胞研究学会(ISSCR)は、このような違法な治療(ステムセルセラピーと呼ぶ)を糾弾し、Nature Medicine誌も同様の論説を掲載した。がん免疫療法をビジネス化し店頭公開した2社は、かなりの利益を上げているものの、科学論文としての治療成果の公表はない。一方、治験ベースの製品開発を行う再生医療ベンチャー2社は店頭公開後も赤字経営が続いている。がん免疫療法の適応は他に治療法のない末期がん患者であり、その治療歴や病態がさまざまなことから、比較試験で有効性を示すことは容易ではない。それでも米国では昨年、プロベンジ(ホルモン治療抵抗性転移性前立腺がんを適応とするがん免疫療法)が、被験者512人が参加したランダム化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験を経て承認されている。オフラベルユースとしての展開が期待できる米国での話である分、日本での議論に参照するには割り引くべき部分があることも事実だが、いずれにせよ快挙には違いない。

 しかし、ここで注目したいのは米国のとあるステムセルセラピークリニックである。このクリニックはFDA管理下の治験ではないものの、日本における臨床研究のようなかたちで治療成績を査読付きのジャーナルに報告しているのである。論文を読むだけでは、このクリニックが詐欺まがいの儲け主義でないことを保証することはできないが、仮にそのような信頼するに足るクリニックが多数あり、GCPではないかもしれないが十分な治療成績の評価を行い、結果を科学論文として報告するような時代が来ると、再生医療が標準的な治療法として確立する事態が遠くなく実現するのではないだろうか。高血圧や高コレステロール血症の治療薬のように、大規模な試験と複雑な統計処理の結果、その有効性を示すようなものではなく、治療法のない難病に対して圧倒的な治療効果を示すような再生医療であれば、ICH-GCPが本当に必要だとは思わない研究者も多数いると思う。私は現在(1)と(2)の立場で再生医療の実践を展開しているが、2011年は(3)の動向にも注目したいと考えている。クリニックが大きな役割を果たしてきた生殖補助医療の発展は、再生医療の発展を考える上で少なからず参考になると思う。

 私自身の研究としては、スーパー特区の成果として培養細胞シートの施設間移動をともなう多施設臨床研究の展開に期待している。全国に100施設近いセルプロセシングセンター(臨床に供する細胞培養用クリーンルーム)があると言われているが、この数はさすがに多過ぎると思う。個人的にはクリーンルームの必要の有無を問う議論から始めたいところではあるが、百歩譲って現行のクリーンルームが必要であるとして、北海道、東北、東京、関西、九州で計10カ所もあれば十分なのではないか。培養機関と投与機関とがどのように協調して連携できるのか、実際の臨床研究の中で多くを学びかつ提案したいと考えている。


+BTJJ+