20世紀後半からDNAなどの生体高分子を対象とする解析技術とそれに関するソフトウェアが急速に進歩し、ゲノムの解読による遺伝子の構造と機能やタンパク質の立体構造など、我々は生命に関する膨大な情報を手に入れることが出来るようになった。これらはゲノミクス (genomics) 、プロテオミクス (proteomics)、など一般にオミクス (-omics) と総称され、広汎且つ包括的な生命の情報のデータベースとして、その内容は現在でも着実に増加、発展している。

 その結果、ライフサイエンスは従来の、いわゆるウェットな実験的手法によって得られる知見に加えて、これのデータベースから得られる情報を組み合わせることにより、ますます加速度的に発展し、基礎的なライフサイエンスのみならず、その実用分野である医学、農学などにも革命的な変化と進歩をもたらしつつある。また、これらの情報を基にシステムバイオロジー (system biology)、シンセティック(合成)バイオロジー (synthetic biology) などの新しいライフサイエンスの分野が確立された。

 最近は、細胞中の代謝に関する膨大な低分子物質(メタボライト)を、質量分光計などによって、その構造、機能などを包括的に解析するメタボロミクスや脳の様々な機能が、脳のどの部位で実際に働いているかについて画像解析を基としたデータが急速に増加しつつある。

 これらの分野における我が国のレベルは世界的にみても非常に高いが、国内に存在する多種多様なデータを統一的に取りまとめ、相互に有機的に関連 (link)させ、ユーザーがより有効に利用するためのデータベースの確立は、その必要性が各方面から叫ばれていたにも関わらず、今まで実質的には存在しなかったし、結局はアメリカのNCBIのデータベースにますます頼らざるを得ないというのが現状である。

 すなわち、個々のデータベースはそれなりに優れたものであっても、現在、世界のライフサイエンスの主な潮流である様々な分野の基礎から応用に至るデータベースを相互に関連付け、統合された観点から構築することに関しては、世界の動きから一歩も二歩も遅れていたと言って良い。更に我が国のデータベースは、従来、その生産者の意向が重視され、ユーザーからの視点が欠けていた(使い勝手が良くない)こともよく指摘されていたことである。

 このような状況下、学界、産業界の強い要望を基に、2011年の4月から我が国において、国立バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC;National Bioscience Database Center)が正式に発足することになった。NBDCの目指すところは、日本のデータベースの基本的な研究開発戦略を策定、実行することであり、そのために近い将来において、省庁間にばらばらに存在するライフサイエンスに関するデータベースと連携し、データを効率よく、我が国のみならず世界中の研究者に還元、提供するを目的とするが、今回はそのための第一歩といえる。

 より具体的な内容としては、データベースに関する基盤技術を開発し、日本中から集められてきたデータベースをユーザーの視点にたって統一化し、データベース相互間のリンクを完成させ、結果として質の高いコンテンツをもつデータベースを構築しようとするものである。これらのデータベースのデータは基本的には無条件公開を原則とするが、公開の原則に関して、個々のデータベースのスポンサーである関係省庁、企業などのデータ作製についての政策、企業目的などとの整合性が問われる場合は、当然のことながら、その公開条件に関しては柔軟に対応する。

 当分は大学などのアカデミア、財団法人など一般研究機関のデータベースが中心になろうが、将来は、なるべく多くの政府機関、一般企業のデータベースに連携を呼びかけ、真の国立 (National) データベースとして、世界的にみて第一級の、特にアジア地域における特徴ある、また、権威 (prestige) ある我が国を代表するライフサイエンスのデータベースを目指したい。

 そして近い将来、アメリカ、ヨーロッパのデータベースとの対等な地位を確立し、我が国の研究及び産業発展を支援する有力な組織となることを期待したい。これらの計画を具体化するために、当面はJST(科学技術振興機構)の中に組織を置き、逐次、各省庁、企業間のデータベースとの連携を図り、最終的には独立した機関を目指すことになる。目的達成まで道は遠いと思われるが、関係諸氏のご理解とご支援を賜れば幸いである。

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