免疫系は、「生物多様性情報の認識とその記憶」を基盤とした生命系であり、環境からの学習により、絶えず免疫系の構成を変容させながらも自律的に自己組織化する高次生命機能システムである。環境刺激に応じて変容し、生物学的個性を決定する点で、免疫系は神経系と類似する。

 しかし、神経系との決定的な違いは、それがゲノムにインプリントされた情報のみに依存するのではなく、ゲノム改変を伴っていることである。免疫系は自律的に「ゲノムの変化」をひき起こし、それらを「環境によって選択」することで、無数の偶然をその内部に取り込むと同時に矛盾なく自己組織化することを可能としている。もうひとつの違いは、免疫系を構成している細胞群は、大幅に日々更新されているにもかかわらず、システムとしての恒常性が担保されている点にある。たとえば、免疫記憶は単一の細胞によって担われているのではなく、システムとして機能しているが、それが動的に変容している中でも、50年以上にも亘って維持する事が可能である。しかし、新しい生命基本原理を生み出すと思われる、このメカニズムは未だ明らかではない。また、免疫細胞は終末成熟細胞なのに,末梢組織で機能変換を起こすことが出来る。それはどのようにして可能になるのか明らかではない。

 いずれにせよ、免疫系は、多様な環境情報を自己組織化し、それをシステムとして可塑的に維持することができる環境応答機構であると言える。地球環境で他の生物と共生・共存し、その情報を自己組織化する原理を知ることは、この高次生命機能系がどのように進化してきたかを理解することになる。その為、単細胞生物や植物を含めた全生物種での免疫システムの研究を統括し、共通原理を見出すことで生命進化の謎に迫ると共に、環境問題を含めた地球規模での生命観に新たな概念を提唱することが可能となる。

 そのためには、細胞レベルでの免疫反応シミュレーションから地球規模での生態系の相互作用のシミュレーションまでも可能にする技術基盤の開発が必要である。「生物多様性情報の認識」は免疫系でしか行われないものであり、新規技術の創出によって進化という要素を取り入れることができれば、新たな生命観を産み出す可能性がある。急速に変遷を遂げている地球環境に適応する戦略(ヒトを含む生物の環境適応戦略)を立てる上で、ミニスケールの進化を内包する免疫系の環境適応・長期記憶メカニズムは重大なヒントを与えるはずである。そのためには新たな理論と技法に基づく「システム免疫学」が必要となる。

 これまでの要素還元的な研究は、免疫系を構成する細胞群や免疫関連分子の個々の機能についての理解を飛躍的に深めた。しかしながら、免疫系をシステムとして捉えるためには、これらを空間の中に配置し、時間軸の上に載せなければならない。その上で、社会に還元可能な形に普遍化することが研究者には求められており、細胞、組織、個体をリンクしたマルチスケールの研究領域の創成が必要となっている。それによって、階層を超えた統合的理解が可能になるからである。


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