■2011年はどのような年になるのか
 2011年は次世代シーケンサーの医療応用が益々拡大し、進化を遂げていく年になると思います。これは、次世代シーケンサーの処理速度が大幅に向上し、価格的にも個人がゲノム解析に手が届く程度になってきたことが大きな要因です。これにより、個人ゲノム解析が、より身近な予防医学の手段として私たちの生活の中に徐々に入り込んでくるのではないでしょうか。また、ヒトゲノム等のゲノム研究では、国際的には中国の台頭が著しく、日本との差が徐々に開いていくと思われます。中国は豊富な国家予算を背景に、大規模なシーケンサー施設などのハード面、および大量の解析に対応する人材からなるソフト面からも非常に充実しており、中国は日本よりもはるかに大きな解析能力を持ち、ゲノム解析工場の役割を担うでしょう。日本も、相当量の解析キャパシティーとそれを用いる独自の技術の開発が、極めて急がれることになると予測されます。


■2011年にやってみたいこと
 理研を中心としたトランスクリプトームのデータを国際標準データベースにもっていくべく、国際ファントムコンソーシアムを設立運営してまいりました。このコンソーシアムは、世界で一番長い歴史をもつジャンボリータイプのコンソーシアムであり、ここで作られたデータと完全長cDNAクローンは、世界中で使用されています。今後も、この活動は、この分野における日本の国際的な地位を築くとともに、ゲノムには、真に何が書いてあるのかを追求した答えが得られると思います。とくに、遺伝子の発現制御に関する転写のネットワーク解析を、次世代シーケンサーを用いることにより可能とする理研独自の技術を作りました。この技術を用いて、各種細胞のネットワークを解析するファントム5プロジェクトを推進しています。これらのデータは、細胞の形質を自由に制御する技術を確立に大きく貢献することになると思います。

 ファントムの活動のように、国際的にライフサイエンスの基礎を推進するのみならず、社会に対する直接的な貢献を真剣に取り組んでいます。近年、疾患の発症(薬の副作用も入る)より、発症を遅らせる、または、発症させないように予測、予防する医学領域として「先制医療」という概念が提唱されてきました。先制医療を実現するためには、ゲノムDNA上のSNPマーカーだけでなく、RNA・タンパク質・代謝産物などのマーカーが必要不可欠であります。受精時に決定されているゲノムDNA上のSNPマーカーからヒトの疾病のリスクファクターの評価が可能であるのに対し、RNA・タンパク質・代謝産物は疾患の進行度を高精度に測定することができると考えられます。とくに、RNAはまだまだ未開拓の領域が多く、新しいバイオマーカーが発見されることが期待されますので、我々も新たなRNAバイオマーカーを開発していきたいと思います。特に、ご存知のとおり神経変性疾患は、発病後の根本的な治療が事実上不可能であり、患者の治療満足度が低く、それに伴う経済的および社会的な損失が大きな問題となっています。アルツハイマー病などの神経変性疾患に対して、新しいバイオマーカーを開発することで、国民のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させるための先制医療を実現化できると予想されます。

 さらに、イノベーションの一環として、これらのマーカーを検出する技術として、SmartAmp法を開発しました。昨年は、この技術を使った新型インフルエンザ検出試薬キットの製造販売承認を取得できました。我々は基礎科学のみならず、こうした独自の技術を生かし、最終的な実用化を想定したイノベーション研究も今後はますます推進し、私たち生活者が先端の科学技術の恩恵をできる限り迅速に享受できるようにするべく、これからも全力を尽くしたいと思っています。


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