新しい年の始まりに、本年もバイオリソース事業を通じてライフサイエンス研究分野のより一層の発展に貢献できればと気持ちを新たにしております。

 さて、理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC)は、この1月に設立からちょうど10周年を迎えました。ここまで事業を継続して来られたのも、ひとえに皆様のご理解と強力なサポートのおかげと深く感謝申し上げます。

 設立当時は、我が国の研究者の長年の努力で開発された細胞株やマウス系統などの貴重なバイオリソースが海外へ流出する、また必要なバイオリソースの多くを海外のバンクへ依存せざるを得ない状況でした。これでは、研究成果の積み上げも出来ませんし、新しいアイディアも浮かばず、科学の厳しい国際競争に勝つことはできません。こうした状態を打開し、我が国が開発したリソースは我が国で保管されるべきであり、利用しやすいバンクが必要であるとの研究コミュニティからの強い要望を受けて、理研BRCは設立されました。

 この10年の間に、リソース開発者の知的財産権を守りつつ、自由な研究開発を支える生物遺伝資源寄託/提供同意書(MTA;Material Transfer Agreement)の浸透や、企業が所有する技術を用いて作製されたリソースも学術研究には一定の条件のもとで自由に利用できるような仕組み等、リソース利用の促進を図る体制を整えることができました。研究者間で流通しているリソースには、10~30%にも及ぶ取り違えや病原微生物汚染が存在します。これらを全て除去し、実験結果の再現性が確保された由緒正しいリソースを利用者の方々に安定的に供給できるように務めてきました。幸い研究コミュニティの支持を受けて、これまでの10年で私たちは世界でも3本の指に数えられるだけのリソースを保有するバンクになりました。研究者同士、また学術と企業の架け橋となる存在になるべくスタートした本事業が、少しずつ形になってきていると自負しております。

 さて、バイオリソースセンターは現在、「世界のRIKEN BRC」となる重要なポイントに立っております。昨年10月名古屋で開催された生物多様性条約締結国会議(COP10)は、資源としてのバイオリソースの重要性を改めて示すものでした。バイオリソースが科学・技術・イノベーションの礎であることは各国の共通認識となり、バイオリソースをめぐる権利主張、利益共有、囲い込みなどが始まっています。特に、天然資源の少なく、科学・技術・イノベーションの発展に依存せざるを得ない我が国にとって、バイオリソースの確保が国の命運を握るといっても過言ではありません。原産国の権利を尊重した上での利用、また我が国独自のバイオリソースの開発・確保・活用が必要です。同時に、経済的視点からだけでなく、人類の福祉と持続的発展のために行われる学術目的の研究においては、それらを自由に利用できることが保証されていることも必要です。
   
 昨年のCOP10とほぼ同時期に、アジアの学術発展を目的とし、アジア圏のリソースセンターで構築したAsian Network of Research Resource Centers(ANRRC)の第2回会議を当センターで開催しました。13ヶ国約150名が参加し、リソースの学術利用のあり方、収集・保存・提供に関する知識や情報を共有しあうことを約束しました。欧米と違う価値観をもつアジアの中で、各リソースセンターが、国際規格に合致したセンターとして成長することがなにより必要です。幸い一日の長のある理研BRCは、科学技術の基盤であるバイオリソース整備の現状とあるべき姿を伝え、そしてそれらをアジアのスタンダードにしていく重要な立場にあり、またリードする責務もあります。

 私たちの2011年のスタートは、世界的に不透明な状況にあるといわれる中で、バイオリソース整備を通じて日本のプレゼンスを世界に示す「攻め」の幕開けです。


+BTJJ+