2011年の新春を迎え、謹んで新年のお慶びを申し上げます。新春にあたり、日本で最大の農業バイオ研究を行っている私たち農業生物資源研究所がどのように研究を発展させようとしているか展望したいと思います。

 昨年、 2010年には、私たち研究機関の将来にとって、さまざまな重要な動きがありました。政府の総合科学技術会議において「科学・技術重要施策アクション・プラン」が、2020年を見据えて、科学・技術により我が国を取り巻くさまざまな課題の克服を目指して策定されました。その中で本年2011年からは、新成長戦略としてグリーン及びライフの2大イノベーションを進めるとしており、これからの我が国の科学・技術の推進方向の一端が明らかになりました。また、私たち研究開発を実施している独立行政法人についても、政府の行政改革の一環として法人のあり方のゼロベース見直しが始まっているほか、平成20年制定の研究開発力強化法に基づき、我が国の研究開発力の強化を目指して新たな法人形態も模索されています。

 このように、私たちを取り巻く環境がきわめて流動化してきている中、私たち農業生物資源研究所は、昨年、独立行政法人として再スタートしてから10年目の節目の年を迎えました。この10年間、私たちは我が国の農業分野における生命科学研究の中核研究機関として、植物、昆虫、動物などさまざまな農業生物の生命現象の総合的な理解を通じて、新しい生物機能の開発とその利用により、世界的な食料・環境問題の解決に向けた革新的農業技術の開発や新産業の創出を目指してきました。

 私たちの研究アプローチは、生命体の遺伝子情報を総て調べるゲノム研究と地球上の有用な生物を集め利用する遺伝資源研究を農業生物のバイオテクノロジー研究の二大基盤として、イネや家畜のような農業生物の性質を根本的に解明し、世界的に急速に発展している遺伝子組換え技術を駆使して、研究成果を日本の農業の発展に生かそうというものです。

 この10年間に、私たちは、2004年に国際コンソーシアムのリーダーとして世界で初めての作物ゲノム、イネゲノムの全塩基配列を決定しました。このゲノム情報を使ってこれまでの技術を遙かに凌駕する迅速で正確な作物の品種改良技術が開発され、従来の品種改良の壁を破るイネの新品種が続々と出てきています。日本のイネの代表品種は「コシヒカリ」ですが、大変味は良いのですがイモチ病に非常に弱い大きな欠点もありました。

 問題は、イモチ病に強い遺伝子と食味を落とす遺伝子が染色体上で隣り合っているため品種改良により病気を強くすると味が落ちてしまうことを長年に渡って解決できないことでした。この壁は、ゲノム情報を使って隣り合う不都合な遺伝子との距離を明らかにし、DNA選抜の方法を駆使して、2009年に味が良くいもち病に強い「ともほなみ」という新品種が作出されたことにより破られました。

 また、2009年には中国と共同でカイコゲノムの解読に成功しました。カイコゲノム情報とわれわれが基本特許を持つカイコの遺伝子組換え技術のコンビネーションは、医薬分野での利用を目指した有用タンパク質を生産する遺伝子組換えカイコとして、現在、群馬県において養蚕農家での飼育が始まりました。従来の養蚕業では国際的なコスト競争を勝ち抜くことは困難ですが、革新技術によりこれまでの養蚕業とは全く異なるカイコをタンパク質の生産工場に置き換えることで、新たな生物産業が育ちつつあります。

 2011年、私たち農業生物資源研究所は、第三期の新たな五カ年の中期計画の初年目を迎えます。農業バイオ分野の最大の研究機関の責任として、これまでの研究成果をさらに発展させ、農業生物に関するゲノム研究と遺伝子組換え研究を車の両輪として、農業や新産業の発展に寄与しようと考えています。

 私たちが進める研究は、人口増加に伴う食料問題、地球規模の温暖化に伴う環境問題やエネルギー問題、長寿社会に伴う健康・医療問題など、我が国だけでなく世界共通の課題の解決に貢献できるものです。私たちは、こうした課題解決をきちんと目標においた上で、農業生物の持つさまざまな生物機能に関する研究を、そのゲノム基盤の整備や新しい技術開発を行いながら、新しい5カ年計画で進めていこうとしており、こうした研究展開が、真のグリーンイノベーションにつながるものと信じています。

 さて、2011年は卯年です。干支のウサギにあやかり、私たちの研究所の第3期をスタートさせるにあたって、これまでの2期10年間の成果を基に、ホップ、ステップ、ジャンプと大きく飛躍させていくことをお約束しますとともに、農業分野における生命科学研究にとって、2011年が未来を切り拓く新しい時代に向かった飛躍の年になることを期待しています。


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