2010年に予想されるブレークスルーの1つは、体液中のmicroRNAを用いた疾患診断の実用化への新展開であると予測されます。このmicroRNAはnon-coding RNAとして扱われていた機能不明の小さなRNAでしたが、がんをはじめとする様々な疾患組織でその変動が明らかとなり、今ではmicromanagerとしての地位も確立し、大きな研究領域となってきました。以前はジャンクとして考えられていたものが、生命現象の偉大な脇役として働いていた,そんな驚くべき事実が次々と明らかになっています。

 さらに興味深いのは、このmicroRNAは、例えばがん細胞ではエキソソームという粒子に封入されて細胞外に分泌され、血液等の体液中を循環していることもわかってきました。この事実は、世界中の研究者を分泌型microRNAを用いた診断薬の開発へと駆り立てており、新年以降には多くの応用開発が実現する可能性が出てきています。microRNAは、これまで測定方法が無かった疾患や生理現象に対する新たな分子の“ものさし”となることが期待されており、Junkの中に閉じ込められた生命現象の神秘に酔いしれる2010年となりそうです。

 我々の研究室のテーマは、このmicroRNA以外に、がんの治療抵抗性を担うとされるがん幹細胞に対する治療法の開発です。その治療戦略は、がん幹細胞に特に発現している糖鎖関連の新しい分子の機能を解析したことに端を発しており、動物を用いた実験では、この分子をノックダウンすると、がん幹細胞の生物学的な特性を強力に抑え込むことができるようになりました。今後はどうしたらその成果を臨床につなげることが出来るかが勝負です。臨床材料に由来するがん幹細胞を自由自在に扱うための方策も必要で、このためには話題のiPS細胞の技術が活用できるかもしれません。iPS技術によって、がん幹細胞を生体と同じ状態を保ったまま純粋に培養できるようになれば、研究が大きく進展するでしょう。がん研究には新たな疾患モデル動物の開発も必要ですが、長年取り組んできたラットをモデルとしたES細胞の作製と遺伝子改変ラットの活用も目前です。動物の命は尊いものですが、彼らが我々に教えてくれることは本当に貴重な材料、財産です。

 もう1つ我々が強い関心を寄せているのは、脂肪の中に潜む間葉系幹細胞です。この細胞は再生医療の将来を担う大事な細胞であることがわかってきました。ときには脂肪、軟骨、骨、そして肝臓の機能を一部持つ細胞へと変化したかと思えば、未分化のまま疾患の部位を自分で嗅ぎ分けてたどりつき、その場で様々なサイトカインを放出し、疾患治癒の手助けをするという大役もこなします。こんな便利な細胞をメダボの世界では嫌われるおなかの皮下脂肪中に蓄えている我々はなんと不思議な生き物なのでしょうか。2010年はますます大きな変化の年になりそうな予感です。


+BTJJ+