年末の海外出張時に、とても印象的な2つのコメントを聞きました。「こんなことなら起業せずに、科学者のままでいた方が良かった」、「気がついたら再生医療ベンチャーで上場している企業は、世界に数社しかないね」。両方とも、欧州の再生医療ベンチャーの経営者のコメントです。前者は、かつて多くの製品パイプラインを保有していたものの、いわゆる死の谷に直面し、幾つかの主要パイプラインをドロップせざるを得ず、今は会社の身売りを考えている方の発言。後者は、かたくなに一つの事業に経営資源を集中し、上場企業として株主との対話を重視しながら証券市場から運転資金をタイムリーに調達している企業経営者の発言です。確かに、上場しているバイオベンチャーは数多くありますが、再生医療となると独立系の上場ベンチャーは数社しか存在しません(注:韓国は国策もあり再生医療ベンチャーが複数上場)。大変な混迷が続く世界経済の中で、再生医療ベンチャーの舵取りが年々難易度を増していることを、私も実感しています。

 当社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)は、幸いにして保険収載を獲得した薬事承認品目「自家培養表皮ジェイス」を保有しています。また、上場企業として多くの株主の皆さまから資本面のみならず、精神面においても支えていただいていることに日々感謝しています。ジェイスは不幸にして重度の火傷を負われた患者さまの治療に使用される我が国初(かつ唯一)の細胞を組み込んだ医療機器であり、2009年1月から保険適用を受けました。保険適用の条件として使用枚数制限や施設基準等が付与されているために、全ての注文が売上に直結する訳ではありませんが、この1年の間に医療機関から数十回注文をいただきました。多くの患者さまの救命にジェイスが貢献できたこと、そして我が国で再生医療製品のニーズが確実に存在することが確認できたことを嬉しく思います。

 2010年のJ-TECは、経営資源を集中しながら事業領域の選択を進めます。そう、集中と選択です。ビジネス用語としましては、選択と集中と表現することが一般的ですが、J-TECはまず普及し始めたジェイスの拡販に経営資源を集中し、次の作戦を選択する手順をふみます。せっかく売る商品があるのですから、商品販売によって営業キャッシュフローを改善します。そして次の作戦の中には、世論に問いかける一手(いって)を含めて、少々ワイルドな施策を盛り込みたいと考えています。もちろん早期に黒字転換するための方策も進めます。社内では、「ワイルドJ-TEC作戦」と名付けて、1年前から議論を進めています。混迷の時代は続きますが、経営資源をしっかり集中して、次の展開に臨みたいと思います。再生医療の産業化は、まだ始まったところです。