2010年には、翌年からスタートすることになる第4次科学技術基本計画の準備が行われる。これは研究者コミュニティにとって気にかかるところであろう。2009年には政権交代があり、日本が今後10年、20年の計を考えていくときに何よりも重要視しなければならない科学技術政策の推進、健康・医療への投資には期待が持たれたが、今のところは研究者や医療界、産業界を勇気付けるような動きにはなっていないように思われる。科学技術基本計画への議論の端緒として、昨年、私は文部科学省で科学技術・イノベーション政策のあり方懇談会、経済産業省では産業構造審議会・研究開発小委員会に参加させていただいたが、そのような場で熱意と危機感とをもって活発に行われた議論と取りまとめが本当に施策へと反映されていくのか、少々疑問に思っている。このように科学技術政策の方向性は混沌としており、その動向が注目されるところである。

 もう一点、前向きに進んでいくことになりそうなのが、医薬品や医療機器に関する臨床試験制度の改革への動きである。具体的には、未承認薬を用いた臨床研究と治験とが並存しているという日本独自の制度を、国際標準にあわせて一体化するIND制度を導入するということはクリティカルに必要である。これは特許・マーケット対応型ビジネスである医薬品産業にとって、シームレスな医療開発の促進という観点からなくてはならないものである。大学における臨床研究の計画策定や実施、支援にかかる人材養成、教育の現場においても、IND制度がない現状では、本質を捉えた適切なものとなっていないと実感している。私は、ここ数カ月間、レギュラトリーサイエンスの振興、医療産業の基盤整備、被験者保護など多様な観点を持った方々から、IND制度導入への戦略、ロードマップについて相談を受けており、その中には私の尊敬する医薬行政の重鎮の方々も存在する。2010年からは、熱意と経験を糾合して、臨床試験制度の改革への動きが加速していくことが予想される。

 さて、文体を変えて最後に私自身の抱負ですが、バイオテクノロジー技術を産業応用化していくことに必要なのは、何よりも成功事例であると思います。成功事例があって初めて制度改革や基盤整備も適正に進むわけですが、残念ながら、日本においては、バイオ医薬の分野で本当の意味でバイオベンチャーが自らの技術の医薬品をマーケットに送り込んだという事例はまだありません。私どもの研究室での発見であるハイブリッドペプチドを事業化するために、2009年5月にスタートしたアップストリーム・インフィニティ社も研究成果を医療現場に届けるために粛々と頑張っています。私にとっては、政策や基盤整備のみならず、自らのシーズの研究開発に道筋をつけることは今年の重要な抱負のひとつとなっています。成功例のことをロールモデルといいますが、私は、これはきらきら光るスター、「キラ星」であると思っています。キラ星がないと、若い研究者や学生が自分もあんなふうになる、あるいは超えるように頑張ろうという基準がないので、バイオ創薬、医薬産業を志す若者もどんどん減っていくことが危惧されます。多様なキラ星が出現することは、バイオビジネス分野を振興する鍵となるでしょう。

+BTJJ+