2010年は、大きな転換を迎える年になると感じています。千里を駆ける虎/寅の年に相応しい年になるに違いないと思います。2009年は、国際的にも、日本でも大きな政治的変化がありました。政権交代です。2008年の米国のサブプライムローンの破綻に始まり、リーマンショックで世界に広がった経済不況は、2009年においてさらに複雑で深刻になりました。このような激動の2009年の暗いトンネルを通り抜けて、明るい光を目指して疾駆できる2010年の寅年であってほしいと願っています。

 2009年は、環境と低炭素の持続的社会の構築に向けた大きな動きがあった年でもあります。 COP15は本格的な合意には至りませんでしたが、世界的に低炭素社会の構築を目指すグリーンのイメージを基にした政策やプロジェクトが立ち上がってきています。グリーンニューディールやグリーンイノベーションなど環境が重要なキーワードとなりました。低炭素社会の構築に関わる科学技術として、太陽電池、風力発電、省エネなどの工学的研究開発が先行していますが、グリーンの主役は植物の力を利用した環境関連の科学技術が今後大きな位置を占めていくと考えています。

 私の研究センターでは、グリーンや環境に関わる植物の光合成、生長、代謝、環境ストレスや感染耐性などに関する遺伝子などの分子レベルでの研究を進めています。植物は光合成により太陽エネルギーを利用してCO2をデンプンなどの炭水化物に変換します。食料やバイオマス生産だけでなく地球環境を保全する重要な役割を果たしています。植物科学はこの10年間で大きく発展しました。すなわち、遺伝子組み換え技術を基盤とする分子生物学、シロイヌナズナ、イネを中心とする分子遺伝学やゲノム科学、そしてそれらのリソースと情報を利用したシステム植物科学へと発展してきています。2010年はシロイヌナズナ全遺伝子の機能解読のための米国のプロジェクトが終了しますので、次のイノベーションへのための10年が始まる年だと考えています。

 このような基礎研究の発展に加えて、植物科学の社会との関わり、産業、農業との関わりが急速に大きくなっています。すなわち、地球規模の温暖化に伴う環境問題やエネルギー問題、人口増加に伴う食料問題、長寿社会に伴う健康・医療問題など世界共通の課題、地球規模の問題の解決に植物科学の成果の応用展開が期待されているからです。言い換えれば、植物の力を利用して低炭素社会、持続的社会の実現に貢献することが期待されているのです。このような地球規模問題の解決への取り組みに関して、国際的な連携での植物科学の推進と応用展開に向けて国際協調で進める動きも加速しています。

 日本の植物科学のレベルは世界的にみても欧米各国と肩を並べるまでに伸びてきています。これはひとえに科学技術基本計画に基づき科学技術への予算を増加させて科学技術創造立国を進めてきた事によると思います。ただ、植物遺伝子の研究に関しては、残念ながら遺伝子組み換え作物に関する国民的な理解が進まないことから、これまでの基礎的な研究成果がなかなか応用に展開できずにいます。一方、中国ではこの5年ほどの間で植物科学、作物科学に大きな予算が投入されて欧米で研究成果を上げた優秀な研究者が帰国して活発な研究が展開されており急激に成果を伸ばしています。そのような状況で私たちのセンターは事業仕分けを受けましたが、これまで進めてきた基礎研究の成果をどのように産業応用、社会貢献、国際貢献に展開できるかを真剣に考える契機となりました。

 さて、2010年は、寅年ですので、思いきって新しいことに挑戦する年だと思っています。とくに次の時代を担う若い研究者の新しい感性は重要です。若くて優秀な研究者が国際的な環境の中で切磋琢磨されて次の世代の新しい科学技術を切り開いてくれると期待しています。

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