2010年、微生物を利用した化学品の生産技術である「バイオプロセス」が産業化に向けて本格的に動き出すと考えています。

 我々は、日本の化学大手の中でも、バイオの技術を化学品生産にいち早く応用しようと検討し、研究開発を重ねてきました。2009年には、グルコースを原料として乳酸を作り出す実証プラントを稼働し、さらにセルロースからグルコース、グルコースから多様な化学品を作る研究開発でも成果が出始めています。三井化学の立場から、2010年のバイオ分野を中心とした化学産業の展望についてお書きしたいと思います。

 私は技術開発の視点として、3つの原則を大切に考えてきました。第1には「アナログからデジタルへの流れ」。いわゆる情報技術(IT)が世の中のあらゆる分野に浸透してきたことです。ITを備えた精密な機器によって、バイオのスクリーニング等の分析・解析の研究効率を上げたり、一方で化学メーカーとして、IT分野にデジタル製品を送り出したりしていくことです。第2は、「グローバリゼーション」です。国境を越えた競争が活発化する一方で、協力関係も密接になっています。アジアは一体であり、我々もアジアの企業や研究機関と協力関係を築くことが重要だと考えているのです。さらに「地球環境」です。地球環境の保護の視点で、世界経済は発展していく流れが強まっています。我々の研究開発は国際的な地球環境保護の動きに沿ったものにしなければならないと考えているのです。

 その視点に立ったときに、我々にとってバイオは特に重視するカテゴリーとして浮上してきました。まず、石油資源が今後枯渇してくる懸念があります。我々は石油の調達が困難になることを想定して、石油以外の原料からも化学品を使う必要があります。まさに、「非化石」原料からバイオ技術によって高付加価値の製品を生み出すということです。さらに言えば、今はブラジルや米国でサトウキビやトウモロコシからバイオエタノールが生産されています。日本はブラジルからエタノールを輸入する展望を描いていますが、限られた国に頼っていては、石油の輸入で日本が中東に依存しているのと同じ構図になる恐れがあります。食料資源とは別の「非可食」植物からの化学品生産は重要です。我々は植物由来のセルロースからバイオ技術で化学品を作ろうと取り組んでいます。そうした化学品を、先端素材の生産に利用していくのです。バイオ分野の強化は、我々の根本的な研究開発の考え方に合致しています。

 重要なのは、我々にとっては、09年までに、非化石、非可食の原料から化学品を大量生産するめどが立ち始めたということです。我々はこれまで、バイオに限らず、フェノールやプロピレンといった化学品の工業生産において、触媒の効率を上げたり、生産性を改善したりする取り組みを日々行ってきました。今後、バイオプロセスにおいても、旧来の化学品生産と同様な技術開発が必要になると考えます。フェーズが1段上がるわけです。バイオプロセスでも、経済性を真剣に検討しなければならなくなります。

 生体触媒の効率改善といった技術課題はもちろん、特許やマーケティングといった幅広い課題に取り組む必要が出てくるでしょう。企業はもとより、アカデミアに身を置かれる方々も経済性の問題を考えねばならない場面が出てくるのではないでしょうか。

 我々はわくわくしています。化学を意味する英語Chemistryの語源は諸説あるのですが、錬金術の「金(Chem)」を意味するとも言われています。まさしく、化学はありふれたものから金を生み出す素晴らしい技術です。我々はバイオ技術から金が生まれることを期待しているのです。

+グリーンバイオ+