「研究者役人」が日本の生命科学研究を変えるかもしれない。。。そう思ったのは、アメリカNIH(国立衛生研究所)で、グラントにかかわる仕事をはじめて3カ月目のことだった。

 自分の研究構想や夢が果てしなく広がっていき、一生のうちにどこまで終えられるかどうかを考えていた矢先、留学先のNIH Extramural部署では自分のアイディアが次々と形になっていくことに感激したのである。それまで、基礎研究者としてトランスジェニックマウスを作成したり、栄養実験をしていた私にとって、まさに目からウロコであった。

 Extramuralは、いわゆるファンディング エージェンシーの機能を持つ部署。ここでは、巨大なNIHグラントのコンセプト/方向性を決めたり、グラントの審査にかかわる業務など行政的な仕事が行われている。驚いたことに、それらは研究者の手で行われていた。まさに、そこは、研究者の頭脳だったのである。

 このExtramuralで働くプログラム ディレクターなどを、私は勝手に「研究者役人」と呼んでいるが、彼らがアメリカの(おそらく全世界の)生命科学研究をリードしていることに気がつくまで3カ月かかった。正直なところ、最初のうちは、事務方のようであまり興味がわかなかった。ところが、私が作ったグラントプランが軌道に乗り始めると、それは一転、ラボ時代より以上にエキサイティングな日々だったのである。

 「研究者役人」の仕事は多様だが、最もおもしろかったのは、新しいグラントの立ち上げ。自分の専門領域のなかで、“現在、研究がどこまで進んでいるのか? どの部分が足りないのか?”を考え、新たなグラントコンセプトを作る。このグラントに、多くの研究者が申請してくるのだが、「研究者役人」は申請者と審査員の間にいて、それぞれの研究者に欠けている部分や、NIHの求める研究の方向性をアドバイスする。申請者の研究もグレードアップし、NIH側もニーズにあった研究が進み、生命科学研究全体がレベルアップされる。

 「研究者役人」は実際の採択には関わらないが、彼らが提案した領域には多額の資金が投入され、その分野の研究が発展するわけで。。。。彼らが研究の方向性を決めているといっても過言ではなかった。モチロン、提案は時代のニーズに沿っていなければならないし、研究全体を見渡したものでなければならないので、独りよがりのアイディアはグラントとして認められない。実際、私が作成したグラントコンセプトも何度となく修正を余儀なくされた。アメリカでは「研究者役人」も研究者として確立されたポジションであり、非常に大きな権限を持っている。

 日本でも、グラントのオーガナイズや研究の方向性を決めるポジションに、研究者のイスをもっと用意してほしい。そこには専門性を持つ研究者が必須である。ラボのトップになれないから。。。と後ろ向きの研究者が座るイスではなく、ラボから飛び出してもっと大きく羽ばたきたい研究者のイスであってほしい。そして、日本型「研究者役人」は、世界に誇れる日本の研究を橋渡しするブリッジとなり得るはずである。日本のように、データを持っている人だけを研究者として重宝がることは、それぞれの研究を小さくまとめてしまう面も持っている。日本型のファンディング エージェンシーを目指すには、研究者自身の意識改革も必要なのかもしれない。まずは、栄養研究の世界から意識改革を広げたい。

キーワード: ファンディング エージェンシー、「研究者役人」、新大統領


※2008年の笠岡(坪山)氏のBTJ記事

データを出す人だけが研究者ではない、NIHの「研究者役人」制度に学ぶ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6170/ (記事リンク


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