大変な混迷の時代です。バイオ産業に限らず、企業活動には試練がまだ数年続きます。そして、この負の連鎖は世界中を巻き込んでいます。

 弊社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)は、重傷熱傷を適応対象とした自家培養表皮ジェイスの製造承認を2007年10月に取得後、14ヶ月に亘る協議を経て2009年1月からジェイスの保険適用が認められました。再生医療製品の第1号製品として製造承認と保険収載という2つのハードルを創業から10年かけてクリアし、ようやくスタート台に立つことができました。今年は本業領域で、しっかり営業キャッシュフローを獲得します。

 創業時の経営計画には、起業3年後には楽勝で黒字化というシナリオが書かれていました。恐ろしいほどのギャップ。しかし、これが現実。弊社は、貴重な経験を積みました。第1号案件を手がける場合は、不確実性(弊社では地雷と呼んでいる)との戦いであります。再生医療の製品化、事業化、そして産業化への成功要因なんて、インターネットには書かれていません。海外の過去事例も、我が国では通用しないことが多いことが分かりました。インターネットを調べても過去のことしか載っていないならば、どのように対処すべきか。もちろん限られた経営資源の中で戦略的にアプローチする必要がありますが、正解は誰にも分かりません。ならば、勇気を持って一歩踏み出すのみと考えます。世界経済が混迷を続ける中、できることならば企業活動を通じて、明るく元気が出る製品やサービスを世の中にお届けしたいものです。

 ジェイスの保険収載の協議過程で、弊社は厚労省から追加資料の提出を求められました。対応した数症例の中で、受傷面積が90%を超える重傷熱傷を負った小児患者様にもジェイスを提供いたしました。受傷から半年以上が経過し、患者様はリハビリができるまで回復されました。良かったです。弊社がジェイスの技術指導を受けたハーバード大学のハワード・グリーン教授は患者様の回復を心から喜び、素敵なクリスマス・プレゼントを患者様に贈られました。これまでの経緯を通じて、思い出す言葉があります。昨年8月に逝去された総合機構生物系審査第一部の故田中部長の言葉であります。「医療に携わる方々は、自分の家族が病気になった時にほしいと思う製品・サービスを提供してください。そのなかにはリスクのあるものも存在するかもしれません。しかし、世の中が求めるものは必ず評価されるはずです。」

 さて、弊社の企業理念の中には次のくだりがあります。「人類が生存する限り成長し続ける企業となる。」弊社はバイオベンチャーではありますが、永続する企業となるために、これからも未知の領域に勇気を持って踏み出します。やっと10年が経過したところで、先は長いです。一方で、企業経営者としては、もう少しスピード感をもって我が国で事業・産業が発展すると良いと思います。