二日酔いの朝、目を覚ますと柔らかな陽射しが窓際の鉢植えにそそがれていた。鉢に植えてあるのはイチゴなのだが、普通のイチゴとは少し違う。そこから数個の実を採り、朝の食卓に載せた。実は、このイチゴには寝起きの頭の働きを活発化させ、同時に採る食物の消化を促進させる薬理活性物質が含まれている。
 
 この半年、毎朝このイチゴを食べ続けたおかげで、満員電車での出勤が幾分かは楽になったような気がする。私にとってはとても効果のある薬なのだ。そういえば、薬という漢字は「楽」に草冠をのせているのだっけ。そんな洒落が自然に頭に浮かぶ。イチゴのおかげであの頃の鬱な気分は嘘のように消えて・・・。

 もちろんここに記した内容は、現時点で実現している姿ではない。これを実現させるための課題は何だろうか。まずもって、現在こんな夢のようなイチゴは存在しない。これを創り出すことが最大の課題だろう。おそらくは、薬理活性物質がイチゴの中で産出されるような遺伝子を組み込むという方法がとられるはずだ。では、組み込む遺伝子はどのようなものであればいいのか。遺伝子の組み込み方にも試行錯誤が求められるだろう。研究テーマには全く事欠かない。頑張らねば・・・。

 首尾良く研究は成功し、どうやら素晴らしいイチゴができそうだ。これで、先ほどの姿は現実のものとなるか。実は、ここから先にも難問が待ちかまえている。遺伝子を組み換えたイチゴを部屋の中で、またはベランダで育てることができるのだろうか。正確には、解放環境下で育てることができるのか、という問いだ。生物多様性への悪影響が生じるおそれがないと認められなければ、栽培することはできない。もちろん、農家がこのイチゴを育てる場合でも同様だ。おそれがないと認められ、国から栽培に必要な承認が得られたとしたら、これで一件落着か。いや、そうはいかない。遺伝子組み換え植物に反対する人や自治体が押しかけて、てんやわんやに・・・。

 さらに、もう一つの難題が立ちはだかることになる。このイチゴは薬です、法律の製造販売許可なく作っても、売ってもいけません。こういわれることになる。では、どうしたら法律上の製造販売の許可が得られるのですか、と私。GMP基準でイチゴを製造し、治験を行って薬効と安全性の確認をお願いします。きっとこういう答が返ってくるだろう。畑でイチゴを育てる場合のGMP基準とはどのようなものですか、と再度私。GMP基準自体は示してあるので、それに従えがいいのです、と答。でも、GMP基準をどうやって畑での栽培に適用したらいいのかわからないので(以下、押し問答が続く)・・・。

 このようなイチゴが開発される頃には、遺伝子組み換えに対する理解が深まり、国からの承認が得られれば栽培は問題なく行え、また、こうした新しい技術に対応した薬の規制体系も構築されていることだろう、きっと。いや、こうなっているように頑張らねば・・・。


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