新薬を発見して開発することは、あたかも、大海に小船で漕ぎ出していくような挑戦的な仕事である。風と潮の流れを読み、月のあかりと星の位置を頼りに航海するという、まことに難しくもあり、頼りないとしか言いようのない厳しい旅をするとたとえてもよいかもしれない。

 このように苦労して作り上げた製品であっても、すぐに激しい競合環境にさらされ、特許切れによるジェネリック医薬の参入により市場を守ることが厳しくなっていること、また、臨床試験や許認可のハードルが高くなった結果、1製品の発売までの研究開発費が膨大にかさみ、企業の収益構造に大きな影響を与えるようになったこと、さらには、たやすく新薬の種もみつけられないことなどが重なって、革新的新薬を生み出すことがさらに困難になってきたとの認識が広まってきていると推察される。

 さて、昨今の状況に目を向けると、世界規模での経済不況の年明けとなった。医薬品業界への影響も次第に明らかになってくるであろう。一方、科学の進歩という点からは、iPS細胞一色で活気づいた昨年に引続き、今年も基礎科学の発展とともに、新しい治療や診断技術と薬剤開発の手法は確実に進歩と変革を遂げていくであろう。これらの進歩や変革は医薬品業界に創薬の点から、大きなインパクトを与えるものであるが、薬剤の適正使用と安全対策に関する規制上の議論は、昨年以上に更に強まるであろう。有効性と安全性の両面から、患者の選択の問題や副作用の低減に関して、薬剤の開発や実際の使用に当たって十分に配慮すべきであるとの認識が、米食品医薬品局(FDA)に広まったことからもわかる。

 科学とテクノロジーが進歩し、病態を適切にモニターできるバイオマーカーなどについての知見が集積されつつあり、このような認識の現実性を裏打ちしている。ゲノムや変異解析、あるいはエピゲノム解析が一段とスピードアップし、このような遺伝子解析の結果から、患者の選択、適切な範囲での有効性の強調により、より適正使用や安全対策、あるいはQOLを考慮した薬剤が開発されていくであろう。医療ニーズを的確に反映した薬剤開発がますます求められる時代が到来している。