昨年末に箱根で講演があり、車で山道を登っているときのこと。頂上まで来ると、突然視界が開け、芦ノ湖が一望にでき、すがすがしい気分になった。
 我々のこれまでの研究のあゆみも振り返ればこんな感じだった。様々な登山用具、すなわち技術を開発してトランスクリプトームという立ちはだかる山に挑んだのだ。これを登りきると、一気に眺望が開け、そこには未知のRNA大陸が横たわっていた。
 2003年、大量のnon-coding RNAの存在を示すデータが続々と出てきたころ、「こんなデータはありえない。捨てたほうがよい。」と言う研究員までいた。
 しかし、私にとって、とるべき道は考えるまでもなかった。データは直視するしかない。その結果、科学者たちはこれまで重要な生命の構成要素を半分以上も見落としていたことが明らかになった。
 こうして、眺望が開けた今、これまでは説明のつかなかった事実がはっきりと説明できるようになっている。例えば、以前、森元首相がヒトのタンパクコード遺伝子の数を聞いて「なんだ,ハエのたった2倍か」と言ったと伝えられるが、たった2倍でこれだけの複雑さをもつ理由は、当時は見えていなかった大量のnon-coding RNAによる制御機構にあったことが示されつつある。
 この広大な領域であるRNAの研究は全世界で非常に活発化している。タンパク質の科学の成熟には半世紀を要したが、RNAは違う。かつてとは、解析技術に格段の差があるからだ。今年、RNAの機能研究は猛スピードで展開するだろう。突進するイノシシみたいに。


2007年新春展望特集


+RNA工学+オピニオン+++