ドラッグラグの原因としてむしろ製薬企業が指摘するのは、「総合機構の審査体制が不十分な上に、審査の方針を決める厚生労働省が医薬品の審査基準を明確化していない」という点だ。


審査官数は米国の10分の1以下
企業の治験相談にも対応できず

 実際、米国で医薬品の審査を担当する食品医薬品局(FDA)の審査官は約2200人いるのに対し、日本の総合機構の審査官はたった197人。人員不足の影響が最も表れているのは治験相談だ。

 治験相談とは、治験を開始するに当たり、治験の進め方などについて製薬企業が総合機構に料金を支払い、審査官に相談を行うこと。医薬品の審査に忙しい総合機構は、治験相談のための審査官を十分に確保できない。

 04年度末には、治験相談の予約が6カ月以上先まで満杯になり、予約の受付を一時中断したほど。その後、総合機構も治験相談の枠を増やすなど対応したものの、現在でも製薬企業からの需要に追いつかず、ポイント制で必要度の高いものだけを選んで治験相談を行っている。

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 国内のある中堅製薬企業は、今年、自社開発した医薬品の候補の治験を日本ではなく米国でスタートさせた。関係者は「はじめは日本で治験をするという話もあったが、日本に比べて米国の方がスムーズに治験を開始できる。米国である程度治験が進んだら、米国での治験を参考に日本でも治験を始める計画だ」と話す。

 別の外資系製薬企業の開発担当者は、「日本の総合機構の審査官からは、治験相談で質問に対する明確な答えが返ってこないことが多い。しかし、FDAの審査官はどうやったら承認を得られるかという姿勢で議論してくれる」とその違いを口にする。

 現在は、国内の大手製薬企業からベンチャー企業に至るまで、まず米国で治験をスタートさせるという企業が増えており、その背景には、米国の治験相談の体制や内容の充実ぶりがあると指摘する人も少なくない。

 実際の審査を行う総合機構ばかりでなく、厚生労働省にもドラッグラグの原因はある。というのも、欧米では新しい技術や新しい治験のやり方などに対して審査側が「ガイドライン」や「ガイダンス」などの名称で考え方を示すことが一般的だが、厚生労働省は考え方を示すのにかなりの時間を要するのだ。

 その好例が国際共同治験だ。これまで主流だったブリッジングでは、ドラッグラグの解消は見込めないため、現在は日米欧、アジアで同時に承認申請できる国際共同治験が世界的に主流になりつつあり、厚生労働省も導入に前向きなことは前述した通り。

 しかし、その姿勢とは裏腹に、厚生労働省は一向にルールを示さない。最低限どの位、日本人での治験を行えば、承認申請のデータとして認めてもらえるのか、不透明な部分が多く、欧米ほど普及が進んでいない。

 患者1人ひとりに合った医薬品を提供するための遺伝子やたんぱく質の解析技術の導入についても出遅れている。製薬企業は治験でどのような結果が出れば、承認申請のデータとして利用できるのか、全く分からない状況だ。内部では、ルールを策定するための検討を行っているものの、厚生労働省はいつまでにルールを示すという期限を定めないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 審査体制の強化にも壁が立ちはだかる。審査員を増やそうにも、審査をできるような人材が大学などに不足しているのだ。それならば、経験豊富な製薬企業の人材を採用すればよいのだが、日本では、過去の薬害の歴史から、規制当局と企業との癒着を防止するため、一部の枠を除いて企業からの中途採用を事実上行っていない。


厚生労働省が設置した検討会
実効性に疑問の声も…

 さすがの厚生労働省も、この状況に危機感を抱いたのか、06年10月に「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」を設置。月一度のペースで検討を始めた。

 ただし、「有効で安全な医薬品を迅速に提供する」という会の趣旨には誰もが賛同するものの、審査のあり方から製品を発売した後の安全対策まで幅広く検討するとしており、この調子では、議論の焦点が定まるのにも時間がかかりそう。「果たして、実効性がどこまであるか」と、早くも検討会に首をかしげる厚生労働省の関係者も出はじめた。

 06年6月に政府がまとめた経済成長戦略大綱で、国際競争力の育成が必要な産業として位置づけられた医薬品産業??。しかし、このままでは、厚生労働省が新たな技術や治験のやり方に関して審査基準を明確化し、総合機構が審査体制を強化してドラッグラグを解消するには程遠く、欧米の背中を追い続けるという構図は変わりそうにない。そうなれば、日本の患者はいつまでたっても“時代遅れ”の医薬品を使わなければならない。 (久保田 文=バイオセンター編集部)

“時代遅れ”な日本の医薬品(前編)はこちら

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