アジアのほかの国と比較して、日本ではブランド品も家電製品も情報機器もいち早く世界最新の製品が手に入るといっていいだろう。しかし、病院で処方される医療用医薬品に関しては、この常識が当てはまらない。

 中国や韓国で使われている最新の医薬品が、日本で使えないことは珍しくない。政府から、国際競争力の育成が必要な産業として位置づけられた医薬品産業だが、このままではかけ声倒れに終わりかねない。

深刻化する「ドラッグラグ」に
医薬品を個人輸入する患者も

 国内の製薬業界団体のシンクタンクである医薬産業政策研究所の調べでは、2004年、世界での売上高が上位だった医薬品88製品のうち、28製品は日本で使えないものだった。さらに、この88製品が世界のどこかで最初に発売されてから、自国で発売されるまでの平均期間を国別に調べたところ、日本では、米国やイギリスの約1.4年、シンガポールやタイの約3年よりも長い約3.8年かかっていることが分かった。

 欧米やアジア諸国に比べて、医薬品の発売までに時間がかかる??。「ドラッグラグ」と呼ばれるこの現象は、日本の患者にとって大きな問題になっている。がんや関節リウマチなど、難病を患う日本人の中には、最新の医薬品を求め、高額な薬剤費を支払って医薬品を個人輸入する者も少なくない。患者が治療の選択肢を広げ、最新の医薬品による治療を受けられるようにするには、このドラッグラグの解消が必要だ。

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 本題に入る前に、医薬品の発売までの過程について簡単にお話しよう。日本で医薬品を発売するには、前臨床試験、治験、審査の3つのステップを経て厚生労働省から承認を得ることが必要だ。まず、製薬企業は前臨床試験で、培養細胞や動物を使い、医薬品の候補となる物質の安全性と効果を確認。そのデータを使って、厚労省に治験届を提出し、治験を開始する。治験では、健常人や患者に対して医薬品の候補を投与し、安全性に問題がないか、効果があるかをチェックする。

 その後、製薬企業が厚労省に承認申請すると審査がスタートする。審査するのは、厚生労働省の外郭団体である独立行政法人医薬品医療機器総合機構(総合機構、写真は総合機構の入口)だ。そこで、外部の専門家の意見を聞きながら、安全性や効果が確認されると、総合機構は厚生労働省に審査結果を報告。さらに、厚生労働省は審査結果を薬事・食品衛生審議会に諮問し、問題がなければ新しい医薬品として承認される。

まず米国で承認、日本は後回し
承認厚労省は「国際共同治験」に前向き

 では、一体、何が日本での医薬品の発売を遅らせているのだろうか。ドラッグラグの原因の1つは、製薬企業の戦略によって、欧米よりも日本での治験を開始する時期が遅れてしまうことだ。というのも、製薬企業の中には日本で治験を行ってもコストが回収できないと判断し、日本での製品の発売を見送る企業がいる。

 また、これまで外資系の製薬企業では、まず米国などで治験を行って承認を得た後、そのデータを日本に持ち込み、日本人を対象にした治験を最小限で済ませて承認を得る「ブリッジング」というやり方が主流で、日本での治験は後回しになりがちだった。

 こういった問題に対して厚生労働省は、2005年1月に「未承認薬使用問題検討会議」を設置し、既に欧米などで承認されている医薬品について、日本での治験を始めるように製薬企業に働きかけ始めた。また、ブリッジングではなく、欧米と同時に日本で治験をスタートさせ、同時期に承認申請を行う「国際共同治験」という新しい治験のやり方にも前向きだ。国際共同治験を行う製薬企業にインセンティブを与えるなど、欧米に遅れることなく製品が発売されることを促している。

 ドラッグラグのもう1つの原因としてしばしば指摘されるのは、欧米に比べて日本での治験に時間がかかることだ。というのも、日本では治験に参加する医師が日常の診療に忙しく、治験に割く十分な時間がない上、治験に参加する患者が集まりにくいといった問題があるからだ。

 ただし、これに対しては厚生労働省が主導して、多くの医療機関でネットワークを作り、患者を迅速に集める体制作りを進めるなど対策を講じており、生活習慣病の治験などでは徐々に効果が表れてきた。 (久保田文=バイオセンター編集部)

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