もう松の内の最終日になりましたが、お約束の今年のバイオ展望(非医薬編)をお届けします。BTJ/HEADLINE/NEWSでは1月14日号でお届けしたものです。このメールニュースは7万8000人のバイオ関係者が登録しており、まだの読者はどうぞ下記からご登録下さい。8万人までは無料です。どうぞ宜しくお願いいたします。
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    Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満


●「今年のバイオはこうなる。非医薬分野編」

 2005年、食を取り巻く環境は大きく変ります。

 昨年、欧州ニュートリゲノミクス機構(NuGo)がEUの資金提供によって誕生しました。また、米国ではカリフォルニア大学Davis校を中心に、NIHなどが支援してニュートリゲノミックスの研究センター(CEO)が発足しました。欧米では食も個々人の遺伝
学的背景によってテイラーメイド化しようという動きが急になってきました。

 アレルゲンや特定の酵素の欠損(乳糖分解酵素など)によって、今までも個人個人の消費者が個の食事を選択して来ましたが、それを急速に解明されつつあるヒトのジェノタイプの情報に基づいて、より精密に展開しようというのが、ニュートリゲノミックスのコンセプトです。米国の研究資金の背景に、多様な人種間での食習慣に起因する人種特異的な慢性疾患の原因究明という公民権運動の名残のような動機も隠されています。

 わが国のニュートリゲノミックス研究はこれからですが、昨年9月にDavis校で開催されたニュートリゲノミックスのシンポジウムには予想外にわが国の食品企業が参加しており、ちょっとブームになる予感です。この研究は、いずれ予防医療などにも結びつく可能性があり、今年一押しの取材対象であると思っています。

 機能性食品市場では、条件付トクホが実施され、その結果、「心臓病の危険性が低下します」といったリスク低減表示が可能となるのが大きい動きです。新しい種類の機能性食品が続々と今年も市場に現われるでしょう。新しい素材としては、αリポ酸などが注目とスタッフがいっておりました。

 また、食の安全では、残留農薬のポジティブリスト制の導入が実際の食品検査ビジネスに大きな市場を生む可能性があります。しかし、こうして消費者に対して、安全、危険取り合わせた情報がどんどん提供されるようになると、消費者が消化不良に陥り、適切な判断が行えるのか、心配になります。その意味でも、リスクコミュニケーションが今年の食の機能と安全には不可欠で、消費者の安心と納得、そして正しい事実に基づいた判断を可能にする情報提供に腐心していかなくてはなりません。

 秋までには、BSEの防御対策に対して国民世論が科学的な事実に基づきまとまる可能性があります。つまり米国からの牛肉解禁が年内に起こるだろうと考えています。

 BTJでは、食の安全と安心に関して実験的なウェブサイト「FOOD SCIECE」を開設しており、今年も技術の先端化が生む、消費者との間の理解のギャップと不安を解消する情報提供の実験を進めていきたいと思います。下記のサイトでどうぞアクセス願います。
http://biotech.nikkeibp.co.jp/fs/top.jsp

 グリーンケ・ミストリーやホワイト・ケミストリー(環境保護派の緑の党が嫌いな人はこの表現を使います)が、いよいよ旬を迎えます。

 2月に京都議定書が施行され、いよいよ二酸化炭素クレジット・ビジネスが動き出します。同じ、樹脂や製品でも、原料や製造工程で二酸化炭素を排出しないか、バイオマスのように、ゼロ・エミッション(光合成でやがて植物体に戻る)である場合、製造コスト上有利になる条件が整います。ただでさえ、原油価格が高騰した現状で、バイオマス・エネルギーや原料は極めて高い注目を集めるだろうと考えます。今まで、誰も見向きもしなかった樹木のバイオ研究開発ですら、ビジネスモデルが書ける可能性が出てきました。

 こうした環境バイオを加速するのが、愛知万博です。環境との調和を意識した万博ではバイオマス・エネルギーや生分解性プラスチックの事業化モデルが提示され、一般市民の心も変えるかも知れません。

 愛知万博はトヨタ博と呼ばれるほど、トヨタ自動車が本腰を入れて支援していますが、このトヨタ本体が、エコカーというコンセプトの下、地球温暖化問題の元凶と名指しされかねない自動車産業の体質改善とイメージ改善に腐心しています。

 インドネシアのポリL乳酸の工場は立ち上がっていませんが、オーストラリアなど適地を模索中で、その強大な購買力を背景に、生分解性プラスチック市場を立ち上げる主役に躍り出ると期待しています。この他、ソニー、松下電器なども家電やオーディオに生分解性プラスチックの商業化を進めており、産業全体が脱化石資源から再生可能な資源への依存を高める足音が聞こえてきます。

 もう一つ注目しているのが、建築廃材を原料にしたエタノール発酵です。すでに技術的には確立、ガソリンへエタノールを添加できる規制緩和を進んだため、今年はわが国のガソリンにもバイオで製造したエタノールが商業的に添加される可能性濃厚だと期待しています。米国では政策的に補助金を提供していることもあり、1000万kl以上の生産が行われています。この数字はわが国の石油化学産業が原料として使用するナフサの量を完全に上回ります。時代は大きく、迅速に移り変わっているのです。

 農業では、来年欧州で組換えヤギの乳で分泌生産したヒト・アンチトロンビンが発売寸前になっています。もたもたしていましたが、分子農業もようやく商業化の陽の目を見そうです。今後、代謝工学の進展も加わり、植物を工場にして、組換えたんぱ
く質(酵素や生理活性たんぱく質など)、そして低分子化合物(アントシアニンなど)など幅広い化学物質が環境に負荷を大きくかけることなく製造される道も開かれると思います。

 農業で今一番注目しているのは、中国政府が今年、組換えイネの解禁に踏み切るか、どうかです。実はイネを主食としするアジア諸国の経済成長と天候不順の結果、アジアの米市場は逼迫しているらしい。人口の増加と経済成長の二つの原因から、自給が困難になった中国が組換えイネを解禁した場合、世界の穀物市場に影響を与える可能性があります。

 いずれにせよ、バイオ研究開発の中進国の参入によって、原油とたんぱく質(食糧)によって、世界を支配していた米国の戦略は大転換を迎えると考えます。これが、軍事支配ではなく、知識支配であることを、ひたすら祈る一年となるかも知れません。

 バイオ・ベンチャーは2005年も続々と誕生、わが国で500社を上回ることは間違いありません。但し、大学発1000社のベンチャー企業が、2極化を迫られているのと同様、バイオ・ベンチャーも成長か、停滞かの二者択一を迫られると思います。

 しかし、2004年のようにまったく中身が薄弱なバイオ・ベンチャー企業がただ、臨床試験に入っているから、という理由だけで安易に上場できた環境は変るべきだと思います。わが国でも上場を狙うバイオ・ベンチャーは世界と競争できる技術、製品、ビジネスモデル、そして人材を擁していなくてはならない。こうしたことが常識となることを、大いに期待しています。

 今年も皆さんのご活躍を、心の底から望み、楽しみにしております。

 そして、今年も、ニュースがありましたら、まずは、miyata@nikkeibp.co.jpまで、
 ぜひともご一報いただきたく、お願いいたします。

    Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満