皆さん、お元気ですか。昨日の北京ゲノム研究所で今回の取材の全日程を終了、本日午後の便で成田に向かいます。中国は1年9ヶ月前に取材しましたが、まったくその変化は加速度を増していました。今や中国の都市は、先進国並のインフラとそれを上回る意欲の人材で満ちています。このままでは間違いなく、わが国は製造業ばかりでなく、知的産業でも中国に凌駕されるでしょう。一昔前は、米国に留学した中国人の研究者は帰国したがらなかったようですが、最近は、若い留学生が帰国することを希望する例が増加しているとうかがいました。中華頭脳の逆流が始まったのです。
 さて頭の痛いイネ・ゲノムです。わが国が中核になって進めている国際イネ・ゲノム共同研究チームは年内にヤポニカのイネ・ゲノム配列のドラフトを発表するといっておりますが、インディカ・イネ・ゲノムは遺伝子解析したアノテーション付のデータを9月には公開します。しかも、これは北京ゲノム研究所だけで遂行したプロジェクトです。同研究所は、ハイブリッド種子の最大の効用でありながら、その機構は不明であった雑種強勢(ヘテローシス)の解明にすでに向かっています。親株である雄・雌株のゲノム配列のドラフトはほぼ終了、これも9月には発表されるでしょう。また、雑種第一代の遺伝子発現プロファイルも独自のDNAチップによってデータが集積されていました。これにより、育種技術上の最大の謎が解明される可能性が濃厚です。
 ゲノム解読した結果、何が得られるのか?あまり明確でないわが国のグループに比較してみて、実に北京ゲノム研究所は実験のデザインが卓越しています。しかも、その目標達成のための戦術も確かです。現在、70台のMEGABASE1000が稼動しており、来月にはもう30台入ります。確定した(つまりフィニッシング済みの確かなデータの)1塩基あたり現在、2セントまでコスト・ダウンに成功、年内には1セントにまで削減する見込みです。上記のイネ・ゲノム計画が最終的に終了するまで、合計15億円しかかからない計算です。詳細は、Biotechnology JapanのHot Newsで報告いたします。
 わが国の国費は200億円近く、イネ・ゲノムに投入されたのではないでしょうか?勿論、新技術を開拓しながら進んだわが国と、後から追い越した北京ゲノム研究所という事情は考慮した上です。パイオニアは、後進に追いつかれる宿命です。その時、ラジカルに既得権を捨て、研究の方針を変えられるかどうかが、わが国がバイオテクノロジーで国際的な競争に勝ち残る要点です。そういう意味でも、わが国のイネ・ゲノム計画は根本からその研究戦略を転換すべき時を迎えたと思います。
 一言でいえば、消費者に役に立つイネをゲノム解析からどうやって育種するか?BSE問題などで、農水省の上層部はすでに食糧省へ脱皮することを決意した模様ですが、末端の研究機関や官僚がこの流れに意図的、非意図的に抵抗し、まるでツイスト・ドーナッツのようにねじれています。もし、いち早くイネ・ゲノム計画も生産者から消費者に重心を移すことに成功すれば、変身した農水省のシンボルとして再び注目を浴びるようになること請け合いです。では、お元気で。(宮田 満@北京)