素晴らしき「武人の時代」

 日本株式会社の倒産が刻々と迫り来る中、研究費バブルだけは年々膨らんで行く。将来の就職先が考慮されているのか知らないがポスドクの数だけは欧米並みになりつつある。誰がどのような基準で評価するのか知らないが、業績トップの大学や研究者をその他大勢と研究費など待遇の上で差別的に扱う方針が決まったという。日本お得意の和魂洋才が、旧態依然とした科学技術開発体制の骨太の変革に臨んでいる姿なのだろうか?掛け声だけは威勢良くなんとなくアメリカっぽい匂いはするが、具体的な将来像が見えてこない。
 私にはむしろ無魂の様にも見える。中高年男性が涙を流して見るという番組、プロジェクトXの中で多少の誇張や事実誤認も含めながらも描かれるかつての日本独自の知恵と結束と活力が、唱えられている産官学研究体制の中で発揮されるのだろうか不安である。
 サミュエル・ハンチントンは日本の文化的範疇が他の如何なる文化圏にも属さない孤立国家であり、政治的には英国、ファシスト諸国、米国と超大国に連綿と従属してきた経緯があると指摘する。科学技術体制も自衛隊も形式は米国の現状に合わせようと急展開を遂げつつある。その目指す方向・評価も米国まかせの隷属状態でよいのか?金融業界の格付け評価で用いられる指標もインパクトファクターも米国私企業製である。グローバルスタンダードと聞こえはよいが、彼らはメートル法とヤード・インチ法を使い分ける人達である。
 そしてマーケットがいつでも正しい評価を下すのであればノーベル選考委員会は必要なく、書籍の売れ行きでノーベル文学賞を、インパクトファクターのみで自然科学の各賞を決めれば良いだろう。科学技術開発とは、いつどこでどんな発見・発明が起こるかわからない状態で勘を働かせて絶えず見回り準備しておくことである。神出鬼没のテロ対策と同様一種の危機管理なのだ。
 アジア各国の政治・経済・科学エリート達のほとんどが英米の教育訓練・評価を日本人より遥かに高率に受けている。日本製の自動車・電子機器だけでなく、日本製の科学教科書・科学理論や概念が彼らにどれほどの影響力を持ち欧米側ではなく日本側へ顔を向けるようになるのか?どれほどの数のアジア精鋭研究者が研究費の分け前に預かるだけでなく、日本の研究機関と真面目に共同研究をしようとするかが、ゲノムプロジェクトの数パーセントを受け持たせてもらったと欣喜雀躍するより、日本の科学政策の将来にわたる真の評価を示すのではないか。
 日本人の3分の1が65歳以上となる日も近い。科学者も当然高齢化する。はっきりと見えないが、厳然として日本科学界に存在する人種差別・性差別・年齢差別の枠を取り払わなければ、諸官庁の目論んでいるノーベル賞大量生産どころか現状維持すら困難になると思われる。
 ラビ・バトラはこれまでの見せ掛けの豊かさの時代から、21世紀初頭は厳しい現実との対決の時代「武人の時代」になるという。同感である。噴火・地震・暴風雨等天変地異の他に未曾有の経済不況と流血事件が日本を襲うだろう。健康保険組合は破綻し、医療・介護を受けられない日本人・外国人が街にあふれるだろう。見込みのある製薬・検査会社そして病院までもが外資系となり、保険医療に依存してきた臨床研究は姿を消し、国内学会・医学誌は半減するだろう。若者は日本を捨て、優秀な研究者や医者は海外へ逃避するだろう。なにかというと日本だけのデフレスパイラルと言われるが、実体は
インターネットとともに日本に遅れてやって来た商品流通及び商品情報(価格・需給)のグローバリゼーションであって、インフレ政策では解決しない。
 とかくベンチャーだ、ITだ、ナノだ、バイオだ、のお題目を唱えてさえいれば日本の未来は明るいように言われている。「日本をどうしたいのか」を描けない限り、「日本はどうすれば良いのか」の答えは永遠に見つからない。合衆国の51番目の州になりバブルに逆戻りしたいのか、江戸時代の勤勉と節約に学び直し、誇りある独立を保つのか。ウオーレン・バフェットが未だに世界一の投資家でいられるのはITやナノを決して過大評価しないからだ。マイクロソフトやマクドナルドが一流品を売っているとは到底言えないが、儲けるシステムは超一流だ。確かに物作りで日本は21世紀もかろうじて生き残れるかもしれない。ただし欧米の奴隷として。この揺れ
る・貧しい・年寄りだらけの島国に、立ち上がって戦おうとする者は何人いるのだろう。
 頑張れ「サムライ日本」。

駒村和雄
国立循環器病センター研究所


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 Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満